#70 貝殻
好きな人にピンク色の貝殻を渡すと、恋が叶う-
海が近い、この学校の女子の間で密かに流行っているおまじない。
ちなみに四つ葉のクローバー探しは人気がない。潮風の影響なのかシロツメクサの生育が悪くて、なんというか、そそられない。
貝殻の方は、濃い色であるほど効果が上がるとか、欠けたものを渡すと長続きしないだの、噂はつきない。
その割りに、恋が実った実例に関する内容は、あまり聞かない。代わりに卒業生の実話という名の都市伝説はあるけど、つまりそういうこと。
「とにかく、ヤローに渡すのはいただけない」
桜貝を翳せば、青空とよく映える。
ピンク色に光が透けてきれい。
「この綺麗さを分かってくれる人にならあげたいけど」
見ているだけで、どこか幸せな気分になれる。
うん、見ているだけでいい。
それで充分なんだ。
疲れた腕を引っ込めて、貝殻をポケットに突っ込んだ。
割れていたら、
そういう運命なんだって思うことにしよう。
桜貝のように淡い色した想いを、壊れやすい繊細さに託して帰途についた。
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きっと親や先生との約束を守って海には入らないと思う。思いたい。
まじないと言っても子供のすること。効果があるわけないとしつつも、それでも。
9/6/2023, 12:01:06 AM