拷問官はいらついていた。
「嘘をつくな。そこにデータがないことは調査済みだ」
壁に縛り付けてから11時間と26分。
どんなに痛めつけようと脅迫じみたことをしようと、男は情報を吐こうとはしなかった。
時間が経過してから最初にした質問を繰り返すと、大抵の人間は本当のことを言うものだ。しかし男から受け取った答えも全く同じだった。
拷問はされる側だけでなく、する側にも忍耐力が必要だ。だからこそ、拷問官はあえて定期的に腕時計を見るようにしていた。長引くことには慣れている。
拷問官のいらつきの原因は、男の態度であった。
まともな人間なら、これだけ長時間何も食べずに身動きも取れない状態でいれば、うなだれて力が入らなくなる頃だ。
だが男は違った。臆することなく、顔をずっと拷問官のほうへ向けていた。そうして10時間以上前に行ったのと同じ受け答えをしたのだ。
またしばらく無音の時間が続く。
部屋に窓はない。暖色のランプは時の流れを長く感じさせるのに役立つ。時の流れなどお構いなしに、ランプは狭い部屋をこうこうと照らし続けている。
このランプを見ていると、拷問官は今日もいつも通りだと気持ちが落ち着いてきた。
再び器具を手に取る。金属の音だけが部屋の中にあった。
しかしそれは違和感の第一歩だった。
男からは唾を飲む音もしない。瞬きの数は増えていたが、それでもしっかりと視線をこちらへ向けている。
その視線は針のように鋭く、恐ろしさがあった。
拷問官にとって、このような表情は見飽きたはずだった。死んでいった男の仲間達。組織への恨み、復讐心。拷問官にはどうでもいいことだった。
この男はそのような顔でありながらも、どこか冷静に見えた。
ランプが男の瞳を照らす。そこにくらい闇の中から燃えあがる光を見て、拷問官はため息をついた。
これはまだまだ時間がかかりそうだ。
10/16/2024, 12:31:51 PM