『誰にも言えない秘密』
これはセバスチャンが悪役令嬢のもとで
働き始めてまだ間もない頃のお話です。
「「「わっしょい!わっしょい!」」」
ある日のこと、青年は屋敷にひっそりと
住み着く妖精のブラウニーたちが、
牛を背負って地下へ続く階段を
降りていく様子を目撃。
あまりにも奇妙な光景に、
彼は妖精たちの後を追うことにしました。
近づいてくる水のにおいと何かの鳴き声。
扉の先には、長い地下水道が広がっていました。
妖精たちはゴンドラを漕ぎ出し、
地下水道の奥へと進みます。
彼らが乗る舟の真下に見えるは
とても大きな魚影。
妖精たちは舟を止めて、「せーの!」という
掛け声と共に牛を水面に放り投げます。
すると水の中から巨大な魚が飛び出してきて、
牛を一瞬で丸呑みにしたではありませんか。
あれは鰐?鮫?鯨?
初めて目にする生き物に青年が驚愕していると、
コツコツと階段を降りてくる足音を拾いました。
振り返るとそこにいたのは、
この屋敷の主であり、彼を拾った美しい娘。
「あなた、見てしまいましたわね」
「あの生き物は……」
「この家で飼っている
モササウルスのモサちゃん (♀)ですわ」
「モサ……」
「私の機嫌を損ねたら、あなたも
モサちゃんの餌になってしまいますからね。
気を付けてくださいまし」
娘の言葉にフンと鼻を鳴らす青年。
この屋敷も目の前に立つ娘も、
謎に満ち溢れています。
疑問に思うことは多々ありましたが、
お互い秘密を抱えた者同士、
余計な詮索はしないでおこうと
青年は心に決めました。
6/5/2024, 6:00:17 PM