月凪あゆむ

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耳を澄ますと

 うちの旦那は、喧嘩早い。とてつもなくだ。
 今日も、日課のジョギングに行ったかと思っていたら。


「ああ!? なんだとコラァ!!」

 ほら、また。
 ほんのちょっと、耳を澄ますだけでもそんな怒号が聞こえてくる。
 だから、仕方ない。

「ちょっとあんた! なにをまた、喧嘩ふっかけてんのよ!」


 きっと、「今日」が何の日なのか、覚えていないだろう。
 私らの、結婚記念日。
 なんで、こんなのと結婚したのかと、かつての自分に問いたい。

 夜になろうが、喧嘩早い夫は、いついかなるときでも、油断は大敵。もう、「耳を澄ます」のにもとうに慣れた。
 
「すぅー……はぁー……すぅー……」
「? あんた、今度はなにをやらかしたの?」
「!?」
 もう、息でなにか伝えようとしてるのがわかる。
 何故かちょっと、もじもじと出てきた夫は。

「……その、今日は。……結婚記念日、だろ?」
「え」

 つい、ポカンとしてしまった。
 そうしている間に、小さな小箱を手渡される。そして視線で、開けてみろ、と。

「……ピアス?」

「その、……似合いそうだなと、思ってよ」
「…………」
 本当に。この旦那は。
「私、ピアスの穴は開けてないんだけど」
「なにぃ!?」
 夫は、動揺を隠せない。なんとも間の抜けたやつだ。

「……これ、イヤリングに変えてもらっておいでよ。そうすれば、つけてあげるから」
「おっ……おう! 頼んでくる!」
 明らかな安堵の表情。

 ……本当に、このひとは。
 どうにも、こういうところが嫌いにはなれない。なんとも言えないおかしな旦那だ。

5/4/2024, 10:09:09 PM