思い出

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ある休日のお話

その時期は、夏の暑さがジリジリと体に染みる七月だった
皮膚を焼く太陽の光、アスファルトから見える蜃気楼。
正に、真夏である。

私は彼女と、この茹だる暑さにピッタリな、大型のショッピングセンターに来ていた。
一度ドアを通れば、エアコンの冷気が体を包む。

〔あぁ〜、涼しい。〕

体をダラリとさせて、近くの共有スペースの椅子に座る。
そんな私を見て、日傘を畳み、帽子を外した彼女が笑う。

「なんていうか、溶けてしまいそうね。」

クスクスとしながら彼女は言った。

彼女も私の横に座り、汗が引くまで一緒に涼む。
といっても、彼女はそこまで汗をかいていない。

そんな彼女を見て、羨ましいと思いながらも、
私は暫く茹だっていた。

大体、十分程だろうか。やっと汗が引いて、少しスッキリとする。

ふと、近くに目を遣ると何かのブースが出店していた。

〔あれ、何だろ?〕

私がそう言うと、彼女もそちらに視線を移す。
私よりも目が良い彼女は、ブースを見て

「オリジナルのアクセサリーを作る、ですって。
イヤリングとか、そういった物。」

そちらを見たままに教えてくれた。

へぇ、アクセサリーか。普段付ける機会が無いものだからピンと来ない。

私がぼーっと考えていると、彼女はこちらに振り返り、
キラキラとした目をしている。

ああ、行きたいんだな。

〔そうなんだ。私少し気になるから、一緒に行ってくれるとすごく嬉しいな。〕

多少の棒読みは許して欲しい。
そう言えば彼女は笑みを溢して頷いてくれた。

椅子から立ち、ゆっくりとブースに向かう。
…先程から彼女が少し落ち着きが無くなっている。
普段、我儘なんて言わないし、欲が無いのかと思っていたが、何となく安心した。

ブースに着くと、丁度席が空いた様で、すんなりと案内を
してもらえた。
席に着くと、店員さんからの説明が始まる。
此処のオリジナルアクセサリーは、どうやら貝殻を使って世界に一つだけの物を作れる、らしい。

貝殻の種類は数mm程度から、数cm程度迄多岐に渡る。

私はどうにも惹かれず、聞き流していると

「じゃあ、この貝殻で、お願いします。」

と、彼女の声が隣からする。
めっちゃ決断早い。思わず彼女を見てしまう。

彼女は私の方を見て、楽しそうに笑った。

出来上がり迄時間が掛かるらしく、ショッピングモール内を彷徨く事になった。

彼女は、どんな貝殻を選んだのだろうか。

世界に一つだけのアクセサリー。

彼女にとって、夏休みの、大切な出来事になると良いな。

9/9/2023, 11:05:25 AM