《20歳》
私は、そんなに長くは生きられないらしい。
もって、あと一年だと言われた。
病の進行は思っているよりも遥かに早く、しっかりとした予測が立てられないらしかった。
難病指定されているこの病気の所為で、私の未来は閉ざされてしまった。
だから、今を、一日を大切にして過ごそうと思った。
余命宣告から一ヶ月後、同じ病室に同い年くらいの青年が来た。
「……こんにちは、お嬢さん」
「こんにちは。お兄さんは、今何歳なんですか?」
「俺? 今十九歳ですよ、君は?」
「……私は一個下ですね。十八です」
「そうか……少しの間ですがよろしくお願いします」
年上にかしこまられると困る。タメ口を求めると、一つしか違わないからお互い様にしよう、と何故かそれで落ち着いた。
とはいえ、病気のことには触れないつもりだし、向こうもそれは暗黙の了解として理解っているだろう。
病院外での生活を聞くのは楽しかった。
大学生で、バイトをしながら過ごしていたようだ。
大学ではどんな勉強をしていたの、とか、バイトはどうだったの、だとか。そんな、私にとっては絶対に関わることのない世界の話を沢山質問した。彼は丁寧に、一つ一つ答えてくれた。
それがあまりにも楽しそうで、つい、余計なことを口走ってしまった。
「お兄さんは、病気で死ぬこと怖くないの? 私はそんなに明るく生きられない……!」
これでは、彼だって病気で辛いはずなのに自分だけが辛いと言っているみたいだ。
そう気付いた時には、言葉は言い切ってしまっていた。
けれど、彼は優しかった。
「……死ぬのが怖くないわけ、ないだろ。でも、俺はこの病気に掛かったのはほんの一週間前だ。だから、きっと君より病院の外の世界を知っている。そこの違いじゃないかな」
「……そうかも知れませんね。変なこと聞いてすみません」
謝る必要はない、と彼は微笑った。
生まれながらにして病気がちな私と、全てが違うのだと思った。
「——あと十日で誕生日なんだ」
そう聞いたのは、彼が来てから二ヶ月経った頃。
すっかり仲良くなった私たちは、そんなたわいない話をする。
その八日後、彼は亡くなった。
病状が急変してしまったらしい。
「…………なん、で……っ……!」
悲しかった。苦しかった。辛くなった。でも何より悲しいのは、彼だろうと思った。
死んで漸く、家族が病院に来たのだから。
見舞いにすら一度も現れなかった彼の家族は、皆悲しんでいた。泣いていた。
そのときから、私は元気がなくなっていった。
生きる気力が湧かなくなった。
なのに、私の体は奇跡の回復を見せた。
余命宣告されてから、一年と少し——明日が私の誕生日だった。
だから、私は沢山笑った。笑って、笑って笑って。
その夜、身体中が悲鳴を上げた。
私も彼も、同じだった。
私も彼も、20歳にはなれなかったのだから。
1/11/2024, 9:00:09 AM