【君の奏でる音楽】
雪くんは歌が上手い。音楽の先生にもよく褒められていたし、通知表の数字はいつも5だった。風鈴の音に合わせて鼻歌をする雪くんは、恥ずかしげに眉をひそめる。
「栞ちゃん。先生に褒められることも、通知表の数字も、本質じゃないんだよ」
「本質?」
「そう」
雪くんは照れ隠しをしようとする時、少し大袈裟な表現を使う。それを追求すると雪くんはますます恥ずかしくなってしまうらしいので、私は大人しく雪くんの話を聞くことにしている。
「あれは協調性の指標だから。先生の意図を汲んで、狙い通りに動くことができたら、褒められたり評価が高くなったりする。実際の上手さとはまた違うんだ」
「雪くんはそれが嫌だったの?」
私が聞くと、雪くんは困ったように笑った。
「嫌というか……うん、嫌だったのかも。なんか、ずるい奴みたいだろ」
雪くんは、死んじゃってから少し素直になったと思う。前だったら私を嗜めていたところだから。
8/13/2023, 11:20:04 AM