なつの

Open App

お題 誰かのためになるならば


空調の効いた部屋で、僕はパソコンゲームを、いや、仕事をしている。左右にいる僕の仕事仲間も、同じように画面を睨みながら、キーボードを叩いている。

念願のゲーム会社に就職して、まさに充実した日々を過ごしていた。得意なプログラミング能力を活かして、幼い頃からミニゲームをいくつか作っていた僕は、周りの子どもだけでなく教師からも評判が良かった。

面白いね!
クセになるね!
クリアしてみたい!

そう言われ続けて嬉しくないわけがなかった。

夢は、自分の会社を立ててゲームを発売すること。

これはずっと僕の中にあった、揺るぎない芯だった。残念ながら企業することはできなかったけれど、ゲームを発売することはこの会社に入って8年目でようやく達成することができた。
スマホゲームが日々新しく発売される中で、パソコンの利点をどうやって活かし、かつ楽しく遊べるか。いくつも案を考えて、何万回と試して、ようやく承認されたのが『タイピングモンスター』だった。ステージによって相手モンスターのレベルが違い、自身のモンスターのレベルが高いほど、お題の文章が長いものになる。英文も入れたことにより、さらに難易度が上がる仕組みになっているので、(和訳付きだ)勉強としても使えるのだ。
ネーミングセンスはイマイチだが、内容としては面白いと判を押されて、無料ダウンロードとしてはかなり良い数字だった。常に新しい機能やキャラクターも考えつつ、アップデートでその全てを整えることは中々難しい。しかし、汗水流してできたものが、自身の思っていた以上の数字として評価されると、たとえ辛くても向き合おうという気持ちにさせてくれる。やりがいももちろん、我が子のような存在だと思っていた時期もあった。

そんな中、異動は突然にやってきた。
新しい社員を多く採用し、ゲーム数を増やすため教育を強化する。そのためにお前が必要だと、ゲーム構造課に急遽配属された。
ここは、新しくゲームを作る時の、いわば基盤のようなものだ。ここで上手くいかないと、のちのゲーム動作に支障がでて、バグが多くなってしまう。そうならないために、特に能力の高い人物がここに集結している。僕のバグが最小限に抑えられているのも、この人達がいてこそなのだ。
僕もその一員なのだと嬉しく思う反面、企画課が採用したゲームをひたすら細かく設定し、その基盤だけを行うだけとは、なんとまあ骨の折れる仕事だと窮屈さも感じていた。

大まかな設定集が、僕の机にドンと積み上がっているのを見ると、少し気が滅入った。けれど、ここで僕がミスをしたら、ゲーム発売が延期、最悪の場合企画自体が破棄になる。それだけは絶対に避けたい。なにしろ、僕もここでお世話になった。
両頬をパンと叩いて気合を入れて資料を見ると、表紙にはこう書いてあった。

「新人教育のため、君の能力を活かして欠陥品を作ってください。必ずバグを起こさせること。少なくとも、50以上は作ってください。バグや欠陥の大小は問いません。」


僕は今、欠陥だらけのゲームを毎日作っている。

7/26/2024, 3:12:08 PM