机の引き出しに入っている一つの標本。
幼い頃に採ってくれた蝶やカブトムシ、浜辺で採ってくれた貝殻が、当時のまま静かに眠っている。
これらは全て、幼馴染みの智也がくれた物だ。
思い出として、好きな人から貰った物として。
今も大切に保管している私だけの、秘密の標本。
でも、前日、智也は女性と手を繋ぎながら笑顔で歩いているのを見てしまった。
多分、あれはデートだろう。
私がもっと早く気持ちを伝えていれば、智也の隣には私がいたかもしれない……。
今さら後悔しても、もう遅い。
……この標本、捨てちゃおうかな?
しばらくじーっと見て、考える。
ダメだ……やっぱり、捨てられない。
これは私と智也二人の、大切な思い出が詰まった標本だから。
「はあ……」
思わず、溜め息が漏れてしまう。
標本を引き出しに戻し、閉めて鍵を閉める。
「智也を標本にすれば、誰にも邪魔されずにずっと一緒にいれるのに……」
思ったことが口から出てしまい、自分が恐ろしくなって、笑うしかなかった。
11/2/2025, 11:38:07 PM