創作 「ハッピーエンド」
彼女は原稿用紙を机に投げ出し、露骨に不機嫌な顔をした。
「なにこれ、面白くないんだけど」
俺の自信作である小説を、彼女は一読しただけでそう吐き捨てた。
「これ、結構前から温めてたネタなんだが……」
「テーマは問題無い。でも、見せ方がまずい。ずっと幸せそうな場面が続いた後のハッピーエンドは、印象が薄くなる。面白くない」
「じゃあ、バッドエンドにしろと言うことか?」
「それもありだけど、きみはハッピーエンドが書きたいんだよねぇ?」
俺は強くうなずいた。すると彼女は、ニヤリと口角を吊り上げる。
「ハッピーエンドを書きたくば主人公に危機を与えなさい。それも、自分なら絶対に乗り越えられない程のね!」
そうして、彼女は得意気に滔々と語る。
「こうすれば、主人公も成長するし、ハッピーエンドのインパクトも残せるんだ。物語を作りたいなら、読者の情緒を引っ掻き回すぐらいの気持ちで書かなきゃね!」
彼女の熱い助言に、俺は胸をうたれた。そして、今の彼女には後光がさしているようにすら見える。
「ありがとう、確かにそうだ。よーし、俺、もう一度書いてくる」
俺は物語づくりの醍醐味を噛みしめて、新たな原稿用紙に、猛烈な勢いでペンを走らせるのだった。
(終)
3/29/2024, 11:03:30 AM