長月より

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 この学校では夏に半袖の制服を着ている生徒は少ない。

 なぜか長袖のシャツの袖を捲っているものが多い。しかも男性だとシャツの下に半袖のTシャツを着ているものが多く、教員からは「暑いだろうから半袖になった方がいい」と苦言を呈されるほどである。

 そしてそれは、宮川翔吾も例外ではなく、夏場の学校でも長袖のカッターシャツを捲って過ごしていた。

 だが今日に限ってどういうわけかシャツの長袖が用意できず、仕方なく半袖を引っ張り出してきたのだった。
 そしてそれを、高宮早苗は出会った瞬間、指をさして大声で指摘してきたのだった。

「珍しいな。君が半袖を着てくるの!」
「長袖がなかったんだよ」

 前に後ろに右に左にと翔吾の周りをうろちょろしながらはしゃぐ早苗に翔吾はうんざりした顔をした。そんなに自分の半袖姿は珍しいものなのだろうか。というか、同じクラスの一ノ瀬も隣のクラスの永倉も今日は珍しく半袖で登校しているものがいるだろう。なぜ自分だけにはしゃいで寄ってくるのか不思議でたまらなかった。

「そんなにはしゃぐもんじゃねえだろ。たかが半袖くらいで」
 そう言うと早苗は目をぱちぱちと瞬かせた。
「いや、いや、いや。君が半袖なのは珍しいよ。はしゃぐに決まっているだろう。僕は一年から出会ってずっと、その姿を見たことないぞ」

 と、言うわけでハイチーズ! 早苗はどこからか取り出した通信機器を手に持って、写真を取り出した。

 男の半袖姿の写真を撮って楽しいのかよ。

 そう思いながら、翔吾はため息をついた後、へたくそなピースサインを作ったのだった。

5/28/2023, 10:56:20 AM