愛情
「あったかい。やっぱり愛情だね」
「…料理を温めるのは熱だと思います」
「何でそんな、大昔のSFのロボットみたいなこと言うの⁈」
「大昔のSFのロボットみたいなものですので」
「君は法律上完全に人間だし、それ以前に私にとっては代わりがいないひとなんだよ」
「嬉しい気がしますが、加熱は重要です。それについて大事なお話が」
「何? 別れ話?」
「違います。この間、俺が当直でいなかった時、ベイクドビーンズの缶をそのまま食べていましたよね? 温めずに缶からそのまま。あらゆる状況証拠からそのように判断しました」
「…だって、自分のために何かするって面倒なんだもの」
「面倒ですか」
「うん、面倒くさい。一人でいた頃も缶詰ばっかり食べてた。ハウスキーパーさんが強引に作り置きしてくれなかったら死んでたかも」
「…これは缶詰と比べてどうですか」
「比較にならない美味しさだね」
「ただの温かいオートミールです」
「何かちゃんと麦の味がする。あのね、壊れてる人間って味が分からないんだよ。身体にいいか悪いか、美味しいかまずいか、そもそもそれを食べたいのかどうか。素材の味も分からなくなって、塩分と糖分しか感じ取れなくなる。そういう時にまともなもの、つまり誰かが誰かのために作ったものを食べると、ものすごくほっとする」
「ほっとしますか」
「うん。加熱によるものかもしれないけど、ここは誰かの、つまり君の愛情が私を温めているという考えを推したい」
「…お願いがあります」
「叶えたいです」
「ご存知のとおり、明日当直です」
「だよね。…いつも思うけどこの世が終わりそう」
「温めたらおいしいものを作っていただくので、食べてください。温かいものを食べてお風呂に入って、ほっとしてほしいです」
「…善処します」
「ただいま帰りました」
「おかえり」
「…やっぱり愛情ですね」
「何が?」
「あったかいです」
「…私も今、ものすごく君の温もりを感じてる。ということは君の熱が私に流れ込んでいる、つまり君の体温が私より高いということだと思うんだけど」
「実際はそのとおりですが、とてもほっとしています。ここはあなたの愛情が俺を温めているという考えを推したいです」
「素晴らしい。やっぱり愛情だね」
「はい。…ところで、昨日はちゃんと食べましたか?」
「…あんまり食欲がなくて…」
「今日は? 何か食べましたか?」
「…本読んでたからまだです…」
「じゃあ、一緒に温かいものを食べましょう」
「…怒らない?」
「読書に夢中になるのはごく自然なことです」
「ありがとう。…あのね、君のこと大好きだよ」
「俺もです」
遅めの晩ごはん:しっかり温めたハウスキーパーさんの力作スープ(昨日食べるはずだったもの。豚の塊肉とたっぷりの野菜、押麦入り)、ホウレンソウとポーチドエッグのサラダ(卵たっぷり)、カリッカリに焼いたバゲット(ちょっといいバター付き)、山盛りの愛情
11/28/2024, 5:25:32 PM