「最後に写真撮ろうよ」
そう言って、彼女は自分のスマホを取り出した。僕の左隣に回り込んでインカメにする。写り込む僕らはなんだかぎこちなくて。思わず笑ってしまった。本当は、寂しい気持ちでいっぱいなのに。
「いくよー」
彼女の合図の数秒後、カシャリという音がした。同じアングルを何度も撮られて、こんな状況に慣れない僕は次第に落ち着かなくなってしまう。だってこんなに近い距離で、肩同士だって触れてる。微かに感じるいい匂いだって気のせいじゃない。今僕らの距離感はほぼゼロなのに、明日からは無限の長さになってしまうなんて。
「元気でね」
「君もね」
彼女が僕に分けてくれたツーショット。にこりと笑った彼女の横に、不自然な笑い方をした僕が写っている。でも、なんだか全体的に薄暗い。
「あはは。やっちゃった、逆光だ」
太陽を背負って僕ら仲良く寄り添った写真は見事に逆光になってしまった。でも、そのおかげで背後からの光が何とも儚さを醸し出しているふうにも見える。寂しげに笑う僕にちょうど似合っていた。
「あっちでもっかい撮ろうよ」
光のほうへと僕を連れ出す君の手。この手が、ずっとすぐ近くにあってほしいと願ってしまう。だけどきっとまたいつか会えるよね。どちらとも口にはしないけど、いつかまた、巡り会って笑い会えますよう。その思いを込めて、明るいところで一緒に撮り直した写真では、今度は僕はできるだけ笑ってみせた。
「いってらっしゃい」
「……いってきます」
カシャリという乾いた音とあともう1つ、僕の隣から鼻をすする音がした。
いつかまた2人で写真を撮ろう。
そしてその時は。
全力で笑った顔で写りたいね。
1/24/2024, 10:39:31 PM