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▪️嵐が来ようとも

世界が滅亡する日まで、あと五日となった。滅亡する、という事実をおれが知ったのはちょうど一ヶ月前で、三週間と少しの間、滅亡の日に向けてのカウントダウンを刻みながら生活をしていたことになる。
嵐の前に憂鬱な気分になることって、あるでしょう。滅亡に向けてのカウントダウンが進行中の日々って、その憂鬱な気分が毎日毎日身体を蝕んでいる感じだ。やっと解放されるのか、と思うとスッキリする気持ちもあるし、でもやっぱり怖いな〜とも思う。
なんでも、地球の半分ほどあるでっかい隕石が追突するらしくって、おれたちはまじで全員死ぬらしい。そうとわかって仕舞えば、今まで営んできた生活だとか経済だとか政治だとか、愛とか恋とか。そんなもの、もうどうでも良くなってしまって、この一ヶ月はみんな、毎日どこかでお祭り騒ぎをしていた。
おれは今日、少し早いけれど、家族に別れの挨拶を済ませてきて、それから小学校から大学までの間で過ごした思い出の各地に行って、そうして恋人の家に帰ってきた。これから五日間は恋人と過ごす。
帰宅をしてテレビをつけると、明日は台風が接近してきて嵐になるよ〜という趣旨の予報がやっていた。最後の台風になるだろうか? キャスターの人が戸締りはしっかり、と呼びかけていたけれど、おれも、たぶん恋人も、明日は外に飛び出すんだと思う。なんちゃらごっこ、とか言って嵐の中で踊ったりキスしたりするの、昔からの夢だったんだ。
翌日は朝から大雨で、雨音で目覚めた。ベッドの中、隣でグースカ寝ている恋人の顎にはうっすら髭が生えていて、かわいいな、と思う。起きてお湯を沸かし、インスタントのコーヒーを水筒に詰めた。それから恋人を起こして着替え、嵐の中に足を踏み出す。
この世の終わりみたいな光景だった。肌にあたる雨は痛いし、風が強くて耳も痛いし、恋人の声もあんまり聞こえないし、視界が悪いし。でも、とても楽しい。それに、嵐の中で踊り狂っていたって死ぬわけじゃない。おれ達が死ぬのは五日後と決まっているから。
楽しい! おれ、T○レボリューションごっこするのが夢だった! そう叫んだおれの言葉を恋人はあんまり聞き取れていない様子だったけれど、彼もめちゃくちゃな笑顔をしていたからなんだか泣きたくなった。泣きたくなったから、嵐のなかでたくさん泣いた。抱き合ったTシャツがびしゃびしゃで冷たい。冷たくてあったかくて、ああ生きてるなぁ……と思う。

7/29/2023, 1:28:03 PM