川柳えむ

Open App

「そろそろ秋の出番じゃない?」
 秋の部署の一人が、夏の部署の一人に尋ねた。
 その様子を、春や冬――各部署のメンバーも見ている。
 しかし、夏は首を横に振る。
「いい加減にしろよ。人間達も困ってるだろうが」
「最近四季がちゃんと機能してないって、人間も神様も怒ってるわ。まずいんじゃない?」
 冬が夏に詰め寄る。春も心配そうにしている。
 それでも夏は首を縦には振らない。
「だが、まだ、忘れ物があるのだ」
 夏が言う。
「忘れ物?」
「そうだ」
「じゃあさっさとその忘れ物を取りに行くぞ。どこにあるんだ?」

 夏の後をついていく。気が付けば海へとやって来ていた。
「しっかり水着着てるんじゃねーよ!」
 夏は準備万端で、浮き輪まで持っていた。
「でも、もう海水浴はできないんじゃないかな? クラゲもいっぱい浮かんでるし」
「そんな……」
 ガックリと膝をつく。
「つーか、忘れ物探しに来たんだろ!」
 冬のツッコミ(言葉)に、すっと立ち上がる。
「では、バーベキューだ! バーベキューをやるぞ!」
「は?」
 気付けば、夏の部署の他のメンバーも揃っていて、みんなでバーベキューの準備をし始めた。台やコンロが広げられ、その上で野菜が切られ、肉が焼かれていく。
「美味いな!」
「うん。おいしー」
「じゃなくて、どういうことだ、これは! 忘れ物はどうなったんだ!?」
「スイカもあるぞ。スイカ割りをしよう」
「話を聞けー!」
 夜になれば花火を始め、また翌日には山へ行き、キャンプをしたり、昆虫採集(一部夏の虫ではなかったが)をしたり、流しそうめんをやったり……そんな風に、何日も何日もかけて夏を遊び尽くした。
 冬も最初こそツッコんでいたものの、途中からは諦めていた。

「夏を満喫したなぁ!」
 肌が黒くなった夏が、満足そうに言う。
「…………それで、忘れ物はどうなったんだ?」
「あぁ。もちろん、回収したさ」
「え、いつの間に!?」
「忘れ物は何だったの?」
「それは――」一拍置いて、夏は言った。「――みんなとの夏の思い出だ……」
「夏……」
 薄々気付いていた冬を除いて、みんな感動したような面持ちで夏を見る。
「最初から夏の期間にやれ!」
「すまん。来年は気を付ける」
(とか言って、来年も忘れてそうなんだよなぁ……)
 ともあれ、夏の忘れ物を回収し、ようやく長い夏が終わったのだった……。


『夏の忘れ物を探しに』

9/1/2025, 11:10:03 PM