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お題:安心と不安

「コウモリ!」
「うむ……」

ごきぶりポーカーというゲームがある。
可愛らしい絵で描かれた害虫達を押し付け合うという割と悪趣味なカードゲームだ。

それぞれの忌み者のカードを名前と共に裏側で出し、本当か嘘かを当てるダウトに近いゲーム性を持っている。
詳細なルールは省くが、もちろんカードをたくさん貰ってしまうと負けてしまう。

今出されたカード、本当にコウモリかもしくは別の何かか……

「む……」

天井を仰ぐ。
もしここでコウモリをつかまされるとかなりピンチだ。
他ならまだ耐えられる……はず。
ここは安全策をとって……

「そのカードは……本当にコウモリだ」

その宣言に彼女は口の端をニッとあげ

「残念、カエルでした。」

とカードを表にしたのだった。




「はぁ……。」

コーヒーを飲んで一息つく。
あの後、結局同じようなことの繰り返しでカードを掴まされ、二進も三進も行かなくなり負けたのだった。

「私の勝ち。祐介はわかりやすいなぁ。」

勝った彼女はご機嫌でかなり饒舌だ。
この手のゲームでは彼女に勝てた試しがない。
……が、悔しいものは悔しい。

「結局、目先の不安を回避するために安全策ばかり講じるからそうなるの。少しはチャレンジしなきゃ。」

何事もそう。

彼女はそう付け足した。
何事もそう?
最悪を回避して何が悪いっていうんだ。

「それで取り返しのつかないことになりたくない。なんだってそうだ……」

言い終えるか否かのあたりで、彼女はハッとしたような表情を浮かべた。
よく見ると少し青ざめている。

咄嗟に下を向く。
何か悪いことを言ったかな。
でも僕の言ったことは何も間違ってない。
チャレンジすることも、その先の結果も、どうしたって怖いじゃないか。

沈黙に耐えかねて彼女の方を見ると、いつもの顔に戻っていた。
少し間をおいて彼女は言う。

「私も、臆病かも。祐介のこと言えないね。えへへ。」

彼女の持つカップは、少し震えていた。

1/25/2023, 12:57:37 PM