『花の香りと共に』
夏は太陽。地面は苛烈に灼かれ、生きものは息をひそめて地を這う。
冬は沈黙。雪と氷が地を覆い、生きものはやはり息をひそめて身を丸くする。
そして春。それとも秋。
どちらの季節も訪れは香りとともにだ。
春は梅か、桜か。秋なら金木犀。いのちがゆらりと立ちあがる、祝福の香り。
いつも生命は瑞々しい香りに祝福される。甘やかな香りのなかで生命は息づくのだ。
それがたとえ、生命などすべて絶えてしまったような、荒れ野でも。砂漠でも。氷原でも。なにものこらなかった、滅びの地平でも。
そこに生命が戻るとき、花の香りを、幻覚する。
3/16/2025, 11:44:56 AM