コハク

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t「小さな勇気」

あぁ知ってる。私も同じだったから。
人通りが多い駅の前の四人掛けのベンチに座る子どもにたまたま目がいった。
いつもなら気にもとめないけど、その子どもの動きがあまりにも挙動不審で気になったのかもしれない。きょろきょろと周りを見渡して、それからペットボトルを見て、またきょろきょろと周りを見ている。私も幼い頃その状況になった事がある。でも今のご時世、私の想定した内容と違っていたら私が不審者になりかねない。でもあの様子は間違いなく幼い頃の私と同じ。人見知りが激しい私はその子どもに声を掛けるという行為はとても勇気がいる。その子のそばにいけばもしかしたらと思ってもその足がまず動かない。その子の顔が曇ってくる。心が震えながらその子に近づく、きっとその子も人見知り私と同じ。
「蓋、開かないの?」
「うん」
「かして」
「(頷く)」
「開いたよ」
「ありがとう…!」
「どういたしまして」
心臓がバックバク鳴った。その場から足早に立ち去る。歩きながら振り返るとその子はやっとありつけた飲み物をゴクゴクと飲んでいた。良かった…。お互いに知らない人との会話は勇気がいる。人見知りの私と小さな子ども、お互いの小さな勇気がたまたま噛み合って、あの子が笑えて本当に良かった。救われた過去の自分と重ねて自分も少し口角があがった。

1/27/2025, 1:21:37 PM