ドクリ、
心臓に杭を打たれたような衝撃が走り
私は思わず「それ」から目を背けた
ここがスクランブル交差点のど真ん中でよかった
突然俯いて立ち止まっても
有難いことに全く目立たない
「なりたい自分になろう!」
「自分を愛し、全てを愛する」
最近よく聞くようなキャッチコピーを唱えながら
晴れやかな表情でスクリーンの中から
大衆に笑顔を振りまく彼女は
最後に会った時より何十倍も綺麗になっていた
君と最後に会った日、
あれから何年経っただろうか
あの時のビジョンがふいに脳裏に流れ始める
私は未だにあの日を生きているのかもしれないというくらい、全てが鮮明に蘇った
今だって手を伸ばせば
彼女の頬に触れられそうなくらいだ
「未来はまさにあなただけのもの」
私の中途半端に宙に浮いた手が
空気を掴むと同時に
スクリーンが切り替わり、
お昼のニュースが流れ始めた
交差点の信号がチカチカと点滅し始める
もうお前の彼女はどこにもいないのだと、
はやく目を覚ませ、と急かすように
青色が心臓の動悸のように早鐘を打つ
私は俯いたまま
雑踏の中に重い1歩足を踏み出した
6/27/2023, 3:14:26 AM