しいな

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僕たちが住むこの村には時計がない。村の真ん中にある僕の身長よりもはるかに高い鐘。二時間に一度、最も外れにある僕の家までしっかり響き渡る。

それが、この村の時間であり掟だ。毎日、毎年寸分違わず鳴り続ける。その鐘の音を頼りに朝起きて、仕事をして、ご飯を食べる。太陽がすっかり沈み月が輝く夜も、森の中の狼や梟が蠢き出す真夜中も一日たりとも休まずに。その事実を誰も疑う者はいない。

その鐘を整備し続けるのは僕の一族の使命であり責務だ。こう言えば聞こえはいいだろう。きちんと作動しているか確認するために1秒も満たない行為のために、誰が喜んで六六六六段もある階段を毎日昇降したいと思うのだろうか。

他人に押し付けたいような嫌な使命を拒否することも出来ずに、今日も階段を登り続ける。それが僕の日常で、村に住む住人はそれを静観し続ける。

そんな日常を、今日壊すのだ。核を視界に定め、手に持った木槌を掲げて振り落とす。僕は、僕の非日常を取り返す。

8/5/2023, 12:30:14 PM