6/25 お題「繊細な花」
伝説がある。
滝の洞窟奥の精霊に、とある花を捧げれば、ひとつだけ願いが叶うという。
霜の華。その名の通り、人がひとたび触れれば溶けて消えてしまう。その花自体もまた、伝説だ。
「そんな話が残っているんですね、この時代に」
「ああ。誰も信じちゃいないがな」
マイナス170℃に耐えうる特殊スーツに身を包み、いかなる温度の物も32時間保存する容器をぶら下げて、二人は吹雪の雪原を歩いていた。
「それで、どんな願い事をするつもりなんですか?」
「プロポーズさ」
「え?」
「こんな男の話を信じてここまでついて来てくれた女に、その花でとっておきのプロポーズだ。見つけたらの話だがな」
愉快げに男は笑う。女は丸くしていた目を優しく細めた。
「では、何があっても見つけなくてはいけませんね」
(所要時間:15分)
6/25/2023, 10:21:15 AM