[カラフル]
レストランへの道すがら、ふと視界に入った町の花屋。蛍光の光に照らされて並ぶいくつもの花。
普段なら通り過ぎるそれに目が奪われ、扉を開くと花の濃厚な匂いが鼻腔を刺激してくる。
『いらっしゃいませー。何をお探しですか?』
「あ、えっと、花はよく分からなくて。……花束を、作ろうかと」
『そうでしたか、どなたに贈られるのですか?』
「あー、……と、その……」
花を誰かに贈るのだなんて今までで初めての事で、どうにも素直に言うのが気恥ずかしい。でも花に詳しくない僕では選べないし、店員に選んでもらった方が良いものが出来上がるに決まってる。コホン、と軽く咳払いをして――。
「……告白用、にお願いできますか」
お任せ下さい、と笑顔を浮かべた店員の女性は次々と花を薦めてくる、この花は花言葉がどうだこうだ、この色合いはどうだと。
『どんな女性かお聞きしても?』
「……柔らかい雰囲気の女性です。花が咲いたように笑うという言葉がぴったりと当てはまるような、とても綺麗な女性です」
『ではコスモスなどのホワイトベースで――』
「あっ、あの!やっぱり、この花をベースに作ってもらえませんか?」
『分かりました。……っ』
「何かおかしい、です、かね」
『ああ、いいえごめんなさい。ただ、その方をよほど愛していらっしゃるのだなと思いまして。カンパニュラの花束はお客様のように告白用にと買っていかれる方もいますが、どちらかといえば恋人やご家族への感謝や愛を伝えるために贈られる方が多いんです』
ホテル最上階にあるレストラン、窓際。
席に付き彼女を待っている間、さっきの女性の言葉を思い出していた。隣に置いたカンパニュラで作ってもらった花束を眺める。あの店で見かけた花言葉は『感謝』。
僕にはこの花束の色の区別がつかない。俗に言う先天性色覚異常というもので、今となってはこの色の少ない世界に慣れているけれども、それでも仕事柄不便を感じる時が度々あった。
だけど、そんな時は君がずっと隣にいて支えてくれた。
だから君にはまず何を置いても感謝を一番に伝えたかった、そしてその上でこの想いを伝えようと。
「こんばんは」
「ああ、来てくれてありがとう。どうぞ」
僕の想いを知ったら君はなんて言うだろう。驚く?知ってた?喜んでもらえるといい。この色鮮やかに彩られたであろう花束を君が笑顔で受け取ってくれるようにと、僕は最後に一度だけ、花束を軽く握った。
5/1/2023, 11:53:16 AM