るに

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薄暗い路地に
珍しい傘が売ってると言われてる
傘屋の「雨傘」があった。
知る人ぞ知るひっそりとした店で
入り組んでる路地にあるから
迷って行けなかった人もいたようだった。
買った人にしかわからない
傘の中の秘密。
店長はなんだか梅雨のような雰囲気を
纏っているから
アオツユと呼ばれているそうだ。
漢字で書くと青梅雨かな。
誰も名前を知らないけど
不思議とアオツユっていう名前が
元々その人の名前だったみたいに
すっごい似合ってるらしい。
私は1週間暇な時間に路地を歩き回り
ついに見つけた。
意外と新しいように見える建物に
「雨傘」と書かれた看板が
目立たないところに置いてあった。
入ってみると
アオツユさんは私を見て会釈し、
すぐ目を逸らした。
人見知りのように見える。
私は店内を何周かして
おすすめの傘を聞いてみた。
すると
ステンドグラスの模様が描かれた
カラフルな傘を渡された。
あなたにピッタリの傘です、と。
その言葉がなんだか嬉しくて
早くさしてみたかった。
けど、
代金は要りません。
お気持ちだけ頂きますね。
と言われてしまった。
2500円以内なら全然払ったのに…。
店から出て早速傘をさしてみると、
傘から雨がサーッと降ってきた。
傘は本来雨で濡れないためにあるのに
この傘は内側から雨を降らせるようだ。
じめっとして最悪な雨かと思いきや、
晴れの日の天気雨のように
優しくて暖かくて柔らかい雨だった。
"Good Midnight!"
そうだった。
私は私の夏を
まだ見ぬ何かに潤してほしかったんだ。
ちょっとだけ癒してくれて
ほんの少しだけ
気持ちを楽にしてくれて。

6/2/2025, 2:56:58 PM