『遠くの空へ』
いつか死ぬことを考えたら、きっとあの遠くの空へ行くんだろうな。
お母さんが言っていたんだ、死ぬ時はみんなお空に行くと。
最後の19歳の日。遺書を書く。明日リビングのテーブルに置くんだ。そして、探しても探しても、見つからないはずの樹海へ行こうと思う。
家で首吊りも考えたさ、近くの川で水死体になるのも考えて、処方されている薬を一ヶ月分全部飲んで野垂れ死ぬことも考えた。
ねぇ神様、何が正解なの?
虐待だって、いじめだって、耐えて耐えて耐えて、もうつらいんだ、いや、もはやつらいを変えて、死ぬのが楽しみなんだ。
明日を楽しみに、私は眠った。いや、眠れない。だから、睡眠剤をあるだけ飲んで、死んだ様に眠りについたんだ。
お父さんの怒鳴り声で目が覚めた。
そして、お母さんの悲鳴で今日で終わらせようと確信したんだ。
お母さん、ごめんね、私だけ逃げるみたいになっちゃって、いや、私ひとりだけ、逃げてしまって、ごめんなさい。
1時間、2時間とお父さんの怒鳴り声とお母さんの悲鳴が交互に家中に響かせる。
息が苦しい。頭がくらくらする。
20歳になった今日、私をおめでとうと迎えてくれる人はいなくて、きっと、神様が迎えてくれるんだよね。
そうじゃなきゃ、20年もこんななんとも言えない気持ちを一人で溜め込んだ意味ないもんね。
お昼12時になるとお父さんもお母さんもお仕事へ行った。いつも、そうなんだから、昨日もきっとそうなんだ。私が20歳なんて関係なくて、ただ時間は進む。
晴天と言えるほどの太陽に、肌が汗ばむほどの気温。
もう、こんなじりじりと肌を焼かれる感覚を感じることもないんだ。
もう、雨を見ることも、雪を見ることもないんだ。
そうおもうと、なんだが、寂しい様な、清々しい様な、矛盾した気持ちになった。
携帯電話も、財布も持たずに、樹海までの交通費が入ったICカードをもって、部屋を出た。
見納めだ。20年間、ありがとうね。なんて声をかける。不思議と涙なんて出ず、笑みを抑えられなかった。その気持ちのまま、昨日の計画通り遺書をリビングのテーブルに置いた。
置いたけど、置いたけれども、封筒が目に入った。
それは私の名前が書いてある。
樹海で見ればいいか。と荷物が一つ増えたことなんて気にせず、その封筒を半分に折ってポケットに突っ込んだ。
自宅から最寄り駅まで徒歩15分。
最寄り駅から樹海までどのくらい電車で揺られるのだろう。
何も考えず、ぼーっと電車に揺られる。
1時間とか2時間どころじゃない。何時間電車に揺られて、夕陽が沈む頃に着いた。
注意書きがいくつもいくつもあって、それを目にした瞬間、なぜだか安心してしまった。なぜだろうか、もう、私は壊れたのかな。
樹海もいいとこだろう。
もう3時間は歩いたと思う。
座って、私は封筒を見た。
「お母さんです。娘にこんなことを言うなんて、最低だと思います。なので、手短に。死んでください。」
ただこれだけ、この2行だけ。
私は涙が出た。死んでと、願われていたと、何かしらでいい、負の感情でさえ喜ばしい。
私はお母さんの死んでくださいと言う言葉の通り、死のうと思う。
お母さん。お父さん。お友達のみんなに、いじめてきたみんなへ。遠くの空で、しっかり呪ってやる。
私は怨念を込めて眠りについた。
いつも飲む薬なんて1錠も飲んでない。
ひたすらここで眠るんだ。
遠くの空でしっかり呪うからね、ばいばい、みんな
遠くの空へ
4/12/2024, 11:59:51 PM