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♯春爛漫


 スーパーに入るなり、私はぶるりと体を震わせた。
 えっ……、なに?! 寒い!!
 店内は鳥肌が立つほど冷房がきいていた。
 たしかに今日は全国各地で夏日を記録している。暦の上では春のはずだが、ジッとしていると汗ばんでくるほどだ。
 それを踏まえても、明らかに空調の設定温度を間違えていると私は思った。
 だからといって、長居するわけでもない、注文をつける勇気もない。結局、上着を持ってこなかった自分を呪うしかなく、私は気を取り直してカゴの中に商品を入れていく。
 最後にベーカリーコーナーへ立ち寄る。
 次の瞬間、はっと私は目を見開いた。呼吸すら忘れていた。
 そこには満開の桜が咲き誇っていた。
 ふらふらと誘われるようにパックを手に取り、二個、三個……と、カゴの中に入れていく。
 鼻腔いっぱいに広がるバニラにも似た甘く優しい香りと青っぽく爽やかな匂いに、たちまち私の体は春の陽射しを浴びたみたいにぽかぽかと温まる。
 ――やっぱり春といったら桜餅よね!
 それでも買い占めてしまうのは悪いような気がしたので、ほんの少しの気持ちばかり残し、私はうきうきとレジへ向かった。

3/28/2025, 12:25:28 AM