歌いながらグッバイ。なかなか難しいお題です。
そこで今回は画面の奥で、ころころ、コロコロ。ダイスが転がっているようなおはなしをご紹介。
最近最近の都内某所、某稲荷神社敷地内の宿坊兼一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしておりまして、
その家には昔々から、「こっち」の世界と「こっち」ではない別の世界とを行き来できる黒穴が、
ぽっかり、あいておりました。
稲荷神術、狐の巣穴、と言います。
稲荷狐の不思議なチカラで、空間と空間の間に「狐の巣穴」を掘りまして、繋いでしまうのです。
要は某青いたぬきの四次元ドアみたいなモンです。
ここの稲荷神社の狐の巣穴はとっても強力で、
空間と空間どころか、宇宙と宇宙、世界と世界の壁までブチ抜いて、「ここ」ではない別の世界の厨二ふぁんたじー組織に繋がっておりまして、
その組織は、「世界線管理局」といいました。
で、その世界線管理局、
たまに狐の巣穴の技術を応用したゲートを使って「こっち」の世界で仕事をしておるのですが、
別世界人の局員と、こっちの世界の人類が、バッタリ不用意に出くわしますと、
時折、困ったことが発生するのでした。
それがすなわち「LaLaLa GoodBye」でして。
「こんにちは。連絡頂いた藤森です」
「ああ、藤森さん。さぁさぁ、こちらです」
その日、稲荷神社の宿坊を訪問したのは、心優しい雪国出身の、藤森という人間。
藤森の職場の後輩の高葉井が、稲荷神社で子狐と遊んでおった最中、
「非常に大失敗な確率」で、大失敗なシチュエーションに出くわしてしまったそうで。
先輩たる藤森に、「非常に大失敗な」高葉井を引き取っていってほしいとのこと。
「ちょっと、ここで待っていてください」
稲荷狐の一家のお父さん狐、藤森を座敷に通して、どうやら高葉井を呼びに行く様子、
なのですが。
「『ここで』待っていて良いのですか」
「はい。待っていてください」
どうにもこうにも、藤森が居る座敷の隣の隣の、隣あたりがコズミックに騒がしいのです。
隣の隣の、隣あたりの部屋から、
高葉井が歌う声がします。
ららら、ラララ、LaLaLa GoodBye。
ららら、ラララ、LaLaLa GoodBye。
妙な調子で妙な歌を歌う、高葉井の声がします。
そして高葉井の歌声に、
みょっみょ、みょみょん、みょっみょ、みーみょ。
コズミックで不思議で奇妙な声が、合いの手をかましておるように聞こえます。
藤森、高葉井が心配になって、部屋から出ました。
「ちょっと失礼」
「あっ、ダメです藤森さん、藤森さん!」
ららら、ラララ、LaLaLa GoodBye。
ららら、ラララ、LaLaLa GoodBye。
藤森が部屋に近づくにつれて、高葉井の声は事実として大きくなり、コズミック合いの手もハッキリ。
「高葉井!何があっ、 あ……」
高葉井。無事か。何があった。
ふすまを開けてそう言おうとした藤森は、途端、
【世界線管理局の法務部】の【部長】であるところの【オネェな宇宙タコ】と
ナニカに取り憑かれたように虚ろな笑顔でラララらららLaLaLaと踊り歌う高葉井と
高葉井を円形に取り囲む【ダンシングヒマワリばりなファンキーダンスを踊るコズミックな】草を、
それぞれ、目撃したのでした。
きっと正気度とグッバイとかそういう意味だったのでしょう。多分。おそらく。ひょっとしたら。
「いいわ、いいわぁ!もっとよ!」
【オネェな宇宙タコ】、高葉井のダンスと歌声に大満足!なかなかノリノリです。
「もっと、もっと!アタシの美しさを、アタクシの光り輝く美貌を、たたえるのよ!」
多分この【オネェ】、ドチャクソに上機嫌であったのでしょう、感情を表すように、冗談抜きで、文字通り、「美しく光り輝いています」。
なんならその【オネェ】のそばで、ドゥンドゥンなファンキーダンスが楽しいのか、
稲荷の子狐も一緒になって【ダンシングコズミック草】の真似をしています。
「おういぇ!おういぇ!」
子狐は完全に正気のようです。普通に、楽しい雰囲気を受け入れて、ピョンピョン跳ねています。
「こう、はい……??」
ふらり。
それらすべての光景を見て、藤森、フッとめまいがして、気絶してしまいました。
しゃーないのです。とてもコズミックなものを、怒涛の情報量で目の当たりにしたのです。
藤森が目を覚ましたのは30分後。
高葉井は歌っていたLaLaLa GoodByeの記憶を、すっかり、サッパリ、失っておったとさ。
10/14/2025, 9:54:10 AM