与太ガラス

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 はじまりはいつも部屋の掃除だった。毎週やっている掃除とは別に月に一回、今日はここと決めて、普段やらない場所の埃を払う。

 キッチン上の収納、食器棚、小物入れ、テレビ台の裏などなど。いつの間にか埃が溜まっているところ、いつの間にかモノが増えているところ、捨てられないところ。これを毎月場所を区切ってやっておけば、大掃除をがんばらないで済む。そう思っていてもできないことはままあるけれど。

 今日は押し入れの一角。買って一回使ってもういいやってなったけど、捨てるのは忍びなくてしまったものが詰まっている。とりあえずで闇に沈めた逸品がいくつもある。

 ここを開けるが最後、一日が終わる。その覚悟を持っていなければ、押し入れの掃除はできない。

 奥行きにして一畳ほどしかない空間が深淵にも感じる。フリードリヒ・ニーチェの言葉が脳裏に過ぎる。『深淵をのぞくとき、深淵もまたこちらをのぞいているのだ』

 ゆっくりと最初の箱を取り出す。それはダンボールではなく、蓋のないカゴだった。もちろんよく覚えている。とりあえずのときにすぐ入れちゃうあのカゴだ。

 まずは取り出した跡の床を拭く。案の定、雑巾は埃にまみれた。早速カゴの中をあらためる。

 すぐ手に取ったのは100均で買った光るコースターだ。グラスを置くとライトが当たってプリズム効果でショーアップされる代物。最初は楽しんで使っていたが、電池が切れたときに、これは金がかかると思って食卓を追われた。だが捨てるのも悔しいとここにしまったのだ。記憶に新しい。これは捨てない。とりあえず埃は拭いておこう。

 次のこれはなんだ?ビニールのちっちゃい袋に入っている。フィクサーコーヒーのペットボトルに付いていたオマケのボトルキャップ! 映画『グレンジャーズ』シリーズとのタイアップで付いていたやつだ。映画を知らないからぜんぜんいらなかったけど、捨てるのもと思って以下同文だ。んー、未開封ってところが自分にとっての不要さを強調している。捨てよう。最近の人はフリマアプリで売るのか?

 そしてこれは、紙袋。カゴの中に紙袋。老舗デパートハカマダ堂の紙袋。捨てられない。たぶん使わないけど何かに使える紙袋。フリマアプリならたぶん売れる紙袋。いちおう埃は払っておく。

 すでに気づいているけどコレ、収拾つかない。

 どこまでやってもオチがつかない。

 ひとまずそっと奥の方にしまっておいても、埃だけはつくのにね。

10/21/2024, 2:28:34 AM