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お題:1000年先も

「佐川。地球ができたのはいつ頃だ?」
「えっ、わからないですよ。」

仕事のお昼休憩の時間。
週初の気だるげな空気の中、おにぎりを頬張った篠崎先輩が言った。

……篠崎先輩はたまによくわからないことを言い出す。

「46億年だそうだ。
アラビア数字になおすと4,600,000,000。」
「はぁ……?」
「そこから先カンブリア時代、古生代、中世代、新生代と時代は移ろっていくわけだ。
その中には様々な生き物が生まれては死に絶えていった。」

なるほど。
そこまで言われてようやく理解する。

篠崎先輩はとあるテレビ番組が好きなのだ。
金曜日の夜7時にやるその番組の名は、
【わくわく、深海生物の謎!】

おそらくその番組にやられたのだろう。

「そして、特に生き物が多かった古生代から新生代、いわゆる顕生代だな。その時代こそ……」
「篠崎さん、この話の結論ってなんですか?」
「……いや、特にない。」

話を切られたのが嫌だったのか、少しむすっとした顔で答えられた。
いや、でも正直興味がない話を永遠と聞きたくはない。

ただ少し申し訳なかったので話を振ってみる。

「正直その規模感の話じゃピンとこないですよ。
私なんて5年前のことさえ曖昧なのに。」
「じゃあ逆に5年先はどうだ?」

5年先……。
正直まったく想像できなかった。

残念ながら私にはこうなりたい、のような理想図があるわけじゃない。

悩んでいると、篠崎さんがにやけながら

「いや、むしろもっと先。1000年後。どうなってると思う?」

と聞いてきた。

「ちなみに1000年前は平安時代だ。せっかんせーじだ。」

平安時代から現代までの時代差。
……進化が凄まじすぎる。
多分私が平安時代の人間でも現在の様子はまったく想像できなかっただろう。

「近未来SFどころじゃなくてなんか……もっと科学技術が発展してむちゃくちゃすごくなってるんじゃないですか?」

悩んで答えたつもりが篠崎さんのツボにハマったらしい。
面白いなと言いながら声を出して笑っている。

答えろと言われたから答えたのに。
こちらが少しムッとしていると、ごめんごめんと謝りながら篠崎さんは言った。

「1000年先も人類がいるなんて、少し希望的観測すぎやしないか?」

2/3/2023, 2:51:10 PM