Day.23_『どこまでも』(少し長め。とある都市伝説をモチーフにしました)
『次は〜遠台(とおだい)〜遠台〜。お出口は〜右側で〜ございます』
駅員の気怠げな声で目が覚める。どうやら、次の駅に着くらしい。しかし……
『遠台〜遠台〜。お忘れ物のないよう、ご注意くださ〜い』
ここは、私の降りる駅ではない。周りを見てみると、何人かの乗客が大きな荷物を抱えて降りていく。
──プルルルルル
『間もなく〜発車いたします。ドアが閉まりますので〜、ご注意ください。駆け込み乗車は〜ご遠慮くださ〜い』
駅員のアナウンスが流れ、電車のドアが閉まる。まだ、何人もの人が電車に乗っていた。
『ご乗車〜ありがとうございます。この電車は〜……』
そんなアナウスが流れ、私はふっと寝てしまった。
そして、10分ほど経った頃……
『次は〜双城(ふたしろ)〜双城〜。お出口は〜左側で〜ございます』
また、あの気怠げなアナウンスで目が覚めた。どうやら、次の駅に着くらしい。
そして、電車は停車する。
『双城〜双城〜。お忘れ物のないよう、ご注意くださ〜い』
そのアナウンスと共に左側のドアが開く。そして、先程より少し多い気がする人数の人が降りていく。
そして、電車は先程と同じように発車した。
その後も「魚羊(うおつじ)」「紫秋(ししゅう)」「桜の川(さくらのかわ)」といった駅に停車していった。しかし、私はどの駅にも降りることはしなかった。
しかも不思議なことに、それぞれの駅で「おりる人」はいても、「乗車する人」は一人としていなかった。私は頭のどこかで、不思議だなと疑問符を浮かべていた。
そして、10個目の駅……「桃源(とうげん)」に着く前には、ほとんどの人は乗っていなかった。その「桃源」に着いた時、最後の一人も降りていった。私は、その人物も見送る。ドアが閉まる。
『次は〜久遠(くおん)〜久遠〜。終点でございます』
電車には私しか乗っていなかった。
電車に揺られながら、外を眺める。外には、柔らかな淡い光が蛍のように漂っていた。どうやら、線路のすぐ側は川らしい。
『ご乗車〜ありがとうございます。間もなく〜終点、久遠でございます。本日も〜当電車をご利用頂き〜、誠にありがとうございます。お忘れ物のないよう、ご注意ください』
アナウンスが流れる。私は、降りる準備を始める。
『なお〜、こちらの電車は「片道走行」となっております』
「……え?」
電車が止まる寸前、駅員がアナウンスでそう言ったのが聞こえた。私はよく耳を傾ける。
『「新生台(しんせいだい)」への電車は、運行しておりませんので、ご注意くださ〜い』
「えっ……嘘……」
帰りの電車が……無い?仕事で乗ってきたいつもの電車はずなのに?
私がそう思っている中、電車は止まる。そして……
『久遠〜久遠〜、終点でございます』
「…っ!」
目の前のドアが……開いた。その先にはホームなど、どこにもなく、真っ暗な闇が広がっていた。何も見えず、音も聞こえない。
「え、駅員さんに言わなきゃ……」
私は、慌てて振り返る。そこには……
「おや、お客様」
「っ!?」
駅員の男性がいつの間にか立っていた。声的に、先程までアナウンスをかけていた人だ。
「どうなさいましたか?終点ですよ?」
「え、駅員さん!」
私は慌てて言う。
「あ、あの……私、乗り過ごしちゃったみたいで……」
「おや、どちらの駅で降りるご予定だったのですか?」
「えっと……」
私は慌ててバッグの中を探る。そして、財布を取り出して、切符を見せた。それを見た駅員は、キョトンとした表情を浮かべながら、こう言った。
「乗り過ごしておりませんよ?」
「えっ……」
「こちらの切符、間違いなく『久遠(こちらの駅)』までのモノになります」
そう言いながら、駅員に返された切符。そこには、たしかに『久遠行き』と書かれていた。私の頭の中は真っ白だった。
「ご確認いただけましたら、ご降車いただけますでしょうか?こちら、回送列車となりますので……」
「っ……」
駅員にそう言われ、私は恐る恐る、ドアの外に振り返る。そこには相変わらず、闇が広がっている。
「……い、や」
「はい?」
「こんな暗い場所に降りるなんて嫌!お願い!私を元の駅に返して!」
必死に懇願するしかなかった。こんな真っ暗闇に取り残されるなんて……そんなの、絶対に嫌だ!
しかし、駅員は「はぁ」とため息をついた。かと思ったら……
──ドンッ!
「……えっ?」
駅員は私のことを突き飛ばし、電車の外へ出したのだ。
「失礼。こちら、『回送列車』となりますので。ご利用、ありがとうございました」
「いやーーーーー!」
私は、そのまま、真っ逆さまに落ちていった。どこまでも、どこまでも続く真っ暗闇へ。電車が見えなくなる寸前、遠くになった電車の中から、駅員が顔を出している。
その顔は……不気味に笑っているように見えたのだった。
10/12/2025, 2:33:02 PM