『鐘の音』
時刻は10時より少し前。スーパーの一角にある隠れた名店である手作りパン売り場に買い物客がにわかに集い始めている。おつかいで食パンを買ってきて、と放り込まれた私は周りにいるマダムたちから歴戦の猛者のような気迫を感じていた。そんな中におもむろにパン屋の店員さんが現れ、そして手にしたハンドベルをガランガランと鳴らした。
「食パンただいま焼き上がりました。レジでのお渡しとなります。お求めの方は二列に分かれてどうぞ」
素早く反応したマダムたちは食パン専用にできたレジにいち早く整列し、遅れを取った私は慌てて最後尾を探し始める。パンの人気を正直侮っていた私は猛者たちで膨れ上がった行列に戦慄さえ覚えていた。
8/6/2024, 3:12:56 AM