あかるあかり

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『約束』

 約束を、破ることを前提で交わす者は多くはない。
 約束が果たされたとき、それは信頼に加担する。
 約束が重く誰かを絡めとるのは、誠実に交わしながらそれを反古せねばならないときだ。

 だから。
 エスタは部屋の壁にかけた暦を見ながら思考をつづけた。
 待ち人はこの約束で苦しむことはない。そもそも約束というには曖昧なものだ。

 ――夏至の前後に、思い出せたら行く。

 時季が夏至と限定されているわけではない。前後何日と決められてもいない。
 そして、思い出せたら行く、という。
 思い出さなければ来ない。それだけだ。

 待ち人は、思い出せなかったら来ない。それだけのこと。
 そしてだから、エスタも約束が破られたのだと悲観することも、ない。
 待ち人が来ないのは約束を破ったからではない。思い出されなかった、それだけのことなのだ。

 苦しいレトリックだが……。

 明日。
 明日で夏至から五日経つ。
 明日、待ち人が来なければ今年は思い出されなかったのだと、思おう。

 破られることのない約束。
 いっそ破ってくれたほうがもしかしたら楽なのかもしれないけれど。
 エスタは苦く微笑いながら、この年の夏至に区切りをつけると決めた。

3/4/2025, 10:32:17 AM