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(お題:嵐がこようとも+澄んだ瞳)

「ねぇ、もしこの先の未来でさ、私たちの間に大変なことが起きちゃって、離れ離れになりそうってなったら、どうする?」

そよ風に吹かれる草原の中。何となく辿り着いた場所で、何となく暇だった。時間つぶしになればいいなと、ただ世間話の一種として振った話題。
唐突に聞かれた質問の内容が理解できないのか、彼女は首を傾げた。

「大変なこと、とは?」

「そうだなぁ……。例えば病気とか、災害とか……あとは、私が犯罪を犯して捕まっちゃう、とか?」

面白おかしく大袈裟な身振り手振りで話してみれば、彼女はそれに特にリアクションを示すことも無く、ふむ、とひとつ頷いて下を向いた。
生真面目で堅物な彼女のことだ。きっと真剣に答えを考えているのだろう。裏表がなく、どんなくだらない話題にも真摯に返すものだから、少しうざったいと感じるときもあるが、私はそんな彼女の性格を好いていた。

体感では大体2分弱と言ったところで、不意に彼女が顔を上げた。

「私は、なにがあろうと貴女の傍に居ます。」

海のように澄んだ瞳で、真っ直ぐこちらを見つめながらそういう彼女の気迫に、私は思わず身じろいだ。

「でも、不治の病とかだったらどうするの?治療薬なんてないんだよ」

「見つかっていないだけでしょう?ならば探せばいい。災害は私が守ればいいし、貴女が罪を犯して捕まるのなら、いくらでも金を積みます。」

「貴女がたまたま傍にいなくって、間に合わなかったら?」

「ならば今から、私が四六時中離れなければいいでしょう?」

いつも冷静沈着で理性的に物事を考える彼女が、こんなめちゃくちゃで無理矢理なことを言うなんて、珍しい。
彼女のことだから「どうしようもできないことはいくら足掻いても仕方ありません。ですが、なるべくお守りしたいとは思っています。」みたいな、曖昧でつまらない答えを寄越してくるのかと思っていた。

「珍しいね?貴女がそんなこと言うなんて」

「そうでしょうか。自覚は無いのですが」

そこで彼女は言葉を区切った。一拍の間を置いて、ゆっくりとまた話し出す。

「私は、貴女が思っているよりもずっと、貴女を想っています。正論や理屈や倫理など、貴女と共にある為ならば不必要なものです。嵐がこようとも、隕石が地球を滅ぼそうとも、私は、貴女のお傍に居たい。共に生きたい。」

月明かりに照らされている彼女は、なんだか神秘的な雰囲気を纏っている。
私を見つめる彼女がいつもの彼女では無い気がして、でもやっぱりいつもの彼女のような気もする。不思議な感覚だった。だけれど、嫌な気持ちはしない。

「……そっか。なら、頑張って私のこと守ってね。ずっと一緒にいれるために」

なんだか小っ恥ずかしい気持ちになって、少しぶっきらぼうな言い方をすれば、彼女はふっと息を漏らした。
きっと私の考えていることなどお見通しなのだろう。なぜだか負けた気がして悔しい。

「えぇ、貴女が、寂しい思いをしないように。」

あぁ、もうほんとうに、この女には敵わない。

7/31/2024, 12:11:59 AM