・宝箱
深夜二時の闇に飲み込まれそうになりながら、屋上のフェンスを這い上がった。こんな夜は月も出ていない。いじめっ子の名前を書いた遺書だけを武器に遂に上り詰めた。生と死の境界線がそこにはあった。
「お邪魔するよ」
急に声をかけられ、フェンスからずり落ちそうになる。
「何ですか?あなた?」
「俺は勇者ヤト。君が死ぬのを待っている」
「死ぬのを?何の理由があって?」
「勇者の近くで死んだものは、必ず宝物をドロップする。それを待っているんだ」
勇者?まるで死神だな。
「僕が死んだって、大した宝物はドロップしないと思うけど」
「じゃあ、これは何かな?」
勇者は僕の胸に手を突っ込み、何かを取り出した。
それは、小学校一年生の時に金賞を貰った母の絵だった。
「おお、絵の才能か、ちょうど欲しいと思ってたんだ」
「駄目だよそれは。母さんが褒めてくれたんだ」
「じゃあ、これはどうだ」
それは母が死んだ日の朝に僕に作ってくれたお弁当だった。
「食料か、まぁ良いだろう」
「駄目だよそれは。母さんとの大切な思い出なんだ」
「何だ、お前には宝物が沢山あるじゃないか?これは楽しみだ」
「僕は死なないよ。お前に上げる宝物なんかないや」
僕は急いで家に帰った。大切な宝物を守らなきゃと思った。
11/21/2024, 12:05:37 AM