『一年後』
ここは還らずの森と呼ばれる鬱蒼とした森林。
「早く来てくださいまし!」
メアという名前の少女が世話焼きドワーフの
手を引いて森の奥へ進んで行きます。
「オズ!」
辿り着いた先、オズという名前の少年が
大木にもたれかかって座っており、膝の上では
薄紫色の毛玉が何やらモゾモゾと動いてます。
よく見るとそれは目が開いてない子猫で、
みゃーみゃーと弱々しく鳴いておりました。
「そいつはいってえどうしたんでい?」
ドワーフおじさんが尋ねると、
「森の中でカラスに突かれているところを
見つけたんです。追い払った後、辺りを
観察したのですが、親猫らしき姿がどこにも
見当たらず……こうして連れてきました」
とオズは答えました。
「うーむ、こいつはただの猫じゃなさそうだぞ。
珍しい魔物の類いと見た」
おじさんとオズが話す横で、メアが子猫に手を近づけていると、お母さんのおっぱいと勘違いしたのか、子猫が指先にちゅーちゅーと吸い付いてきました。
その姿に心打たれたメアは、
「わたくしこの子を育てますわ!」
と宣言しました。
ドワーフおじさんは驚いた様子で、
「生き物を育てるちゅーのは大変な事だぞ。
最後まで責任持って面倒見てやれるか?」
と覚悟の問いを投げかけます。
オズとメアは迷わずその言葉に頷きました。
それから二人は交代で寝起きして子猫にミルクを
あげたり、湯たんぽを寝床の下に敷いて温めたりと
甲斐甲斐しくお世話をしました。
ある日のこと、子猫のお腹がぱんぱんに張って
いるではありませんか。
一体どうしたのでしょう?
ドワーフおじさんに相談すると、
「こりゃあ溜まっとるな」
と顎髭をいじりながら彼は言いました。
「本来なら親猫が子猫の肛門を舐めて排泄を
手伝ってやるんだがな」
「え、おしりの穴を舐めないといけないのですか?!」
キャッと口元に手を当てるメアにオズが、
「刺激を与えればよいので、舐めなくても大丈夫ですよ」
と笑いながら教えてあげました。
ドワーフおじさんは隣で呆れた顔をしています。
二人は早速、濡らしたガーゼで子猫のおしり
を優しくトントンと刺激しました。
すると子猫はぷるぷると震えだし、
ぷりぷりぷりぷりっ!
と小さな体から大量のオソマが放出されました。
「あ!オソマ出ましたわ!」
オソマ!オソマ!
興奮する子どもたちをドワーフおじさんは
優しい眼差しで見守っていました。
こうして子どもたちに大切に育てられ
すくすくと成長した子猫は、一年後には人の言葉を
話し、魔法が使えるようになっていましたとさ。
5/8/2024, 6:25:02 PM