作家志望の高校生

Open App

身支度を済ませて、ベッドに潜り込んで、寝る準備は万端だ。目を閉じて息を落ち着かせる。けれど、いつまで経っても眠気はやって来なかった。いくら寝ようと格闘してみても、一向に眠れる気配は無い。
隣で眠る君も同じようで、さっきから何度も体勢を変えている。
「……ねぇ、起きてる?」
念の為の確認。答えが返ってくるのは分かりきっていたが、惰性で聞いていた。
「……起きてる……」
眠りたいのに眠れない苛立ちを込めたような声で返事が返ってきた。いつもより潜められて掠れたような声は、眠ろうと努力していた形跡だろう。
「……寝れないならさ、ちょっと出かけない?」
どこへ行くかも、何故誘ったかもよく分からない。とりあえず、眠れないのなら窮屈でしかないこの布団から抜け出したかった。
「……いいよ。どこ行くの?」
しばらく2人で黙り込んで考える。夜に開いている店なんてコンビニくらいしか無いし、それでは大して時間も潰せないだろう。
「……あの、団地の前の……」
「公園?やること無くね?」
そんなことは分かっている。でも、本当にそれしか思いつかなかった。
布団でぐだぐだと駄弁っていても仕方ないと、ひとまず例の公園に足を向けた。とっくに成人した男2人が並んでブランコに座っている絵面は、昼間なら不審者として通報されかねない。
キィキィと耳障りな金属音が夜の街に響く。この時間なら、どうせ誰も起きていない。そこまで迷惑にもならないだろうと言い訳をしてブランコを漕いだ。
「……お前漕ぐの上手いよな。」
隣で揺られる彼は、ほぼ同時に漕ぎ始めた俺より随分大きく揺れている。
「コツがあんだよ。」
「ふーん。」
あまり有益な情報だとは思えなかったので適当に返事をして、何気なく空を見上げる。子供の頃から、コイツはブランコを漕ぐのが上手かった気がする。
「……なんか眠くなってきた。」
本当は全く眠くなんて無い。けれど、なんとなく、横でゆらゆら揺れているこの男の温もりが恋しくなった。
帰り道、秋の夜の寒さに身を寄せ合う俺達を、冷たいようで温かい、隣の男に似たような月光が煌々と照らしていた。

テーマ:moonlight

10/6/2025, 7:11:48 AM