『好きな色』
赤色の似合うブルベ冬に生まれたかったと思いながらのライブ開演前。Tシャツやパーカー、タオルに至るまで赤色が浸透しており、フロアに詰める男女たちはそれらを纏って幕が開くのを今か今かと待っている。バンドグッズに赤色が多いのは、バンドのボーカルが普段から赤い服ばかり着ているため。ブルべイエベの概念を知って似合う色と好きな色との剥離に少しばかり落ち込んだのは割と最近のことだ。自分に似合う色はいわゆるくすみカラーだけど、みんな似合うかどうかでその色を好きなわけではないのだろうなと周りをこっそり見渡しながら今着ているTシャツや、スニーカーの赤色を思う。
フロアのBGMの音量と照明が小さくなっていき時刻を確認すれば開演時間ジャスト。誰ともなく観客から歓声が上がる。暗い照明の中、出囃子として選ばれた曲が流れ、手ぶらでやってきたバンドメンバーが声援を受けながらステージに置かれた楽器を携えると視線を交わして今日のライブ最初の曲に備えた。
そうして演奏が始まった瞬間にはくすみカラーのこともブルベ冬のことも頭から離れて今見ているものに追いつくことでいっぱいになっている。今日もステージ上のボーカルは赤色に塗れて喉が裂けそうになるくらいの叫びを全身全霊を込めて上げていた。何に対してかわからない涙が滲むとともに、自分の好きな色はこのバンドを好きな限りは変わらないのだろうと思っていた。
6/22/2024, 6:02:31 AM