『LETTERS』
【親愛なる、こはく色の髪の指揮官様へ】と書き出した手紙を、もう何枚も引き出しの中に溜めてしまっていることに気がついたのは3ヶ月をすぎた頃だった。
───私はあの人が居なくなった時のことを今でも覚えている。
前日の夜、最後のオアシスバトルの試合を終えて彼女の部屋に行った。
薄く空いた扉の隙間から中を覗くと、机に向かってなにか手紙を書いているようだった。それは翌日別れる同盟の仲間に向けたものだったと、後で知った。
手を止めては目頭を押さえて、肩を震わせていた。
目頭を押さえる手からは、大粒の滴がいくつもいくつも零れていた。
声を殺して、あの人は泣いていた。
いつも笑顔を絶やさなかった彼女が、声を殺して泣いていた。
居てもたってもいられず、私は彼女の部屋のドアを叩いた。
「っ!……誰……?」
「mirinちゃん、私だよ、マディだよ」
「っ、マディ、ちゃん……っ」
駆け寄って、ぎゅうっと抱きしめるとmirinちゃんは震えていた。温かいなみだのぬくもりが、私の肩にいくつもいくつも染みていく。
肩越しに見つけた、インクが涙で濡れて滲む紙。
ニホンゴ、mirinちゃんがよく教えてくれたから、少し読めるようになったはずなのに、こんなに濡れてたら読めないよ…。
でも、これだけはわかる。
文章のなかに、「ごめんなさい」「思い出」「楽しかった」……「大好き」と「本当にありがとう」を見つけた。
彼らの中にいたmirinちゃんは本当に幸せそうだったのだ。
誰かと戦うことに怯えていた彼女に勇気を与えてくれた。
mirinちゃんはそんな彼らのことを本当に大切に想っていたのだ。
私はmirinちゃんがいつもそうしてくれたように、背中を優しく撫でた。
「……マディ…ありがとう……」
それだけ言うと、声を上げて子供のように泣きじゃくった。私もこらえきれなくなって一緒に泣いた。
こんな終末の中でも、この基地の中心にいた彼女が断腸の思いで決めたことを、最後まで私は止めることができなかったのだから。
私も寂しいよ。
いつ帰って来るかもわからない。
あなたがずっとここにいてほしい。
また魔女のほうきに乗って一緒に出かけようよ。
一緒にフランクのお散歩に行こうよ。
一緒にゴーストと3人で絵を描こうよ。
夜空の下でたき火を囲んで歌を歌ってよ。
おいしいごはんを作って皆で食べようよ。
ひとしきり泣いたあと、私は彼女と一緒のベッドで眠った。
これが私と指揮官・mirinとの最後の夜だった。
─────EoS914 SS/LETTERS
『さよならを言う前に』
8/20/2024, 10:57:36 AM