まとー(しばらくお休み)

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テーマ『フラワー』

平日のフラワーショップ。来客を知らせる鈴の音がしてドアに目を向けると、そこにはそうっと中を覗き込んでいる少年がいた。
「いらっしゃいませ」
笑顔でそう挨拶すると、少年はビクリと体を震わせてから「は、はい、こんにちは……」と答えた。そして意を決したように店内に入ると、物珍しそうに見回しながらも店員である私に近づく。
「あ、あのっ、千円でおすすめの花を、買いたいん、ですが……」
よほど緊張しているのだろう、尻すぼみになりながら話しかけてきた。
もうこの時点で私は感づいた。青春だな、と。
学校は夏休み。春なら女子高生が卒業式の贈り物に買うこともあるが、この時期はあまりない。その上、男子が少ないお小遣いを握りしめて花を買う目的といえばそう、ずばり告白だ。
「おすすめするにしても、誰に、どんな目的で贈るかによって変わってきますよ」
意地悪をするつもりはないが、そんな風に言えば少年は顔を真っ赤にしてブツブツとつぶやく。その中に可愛らしい女の子だろう名前があって、思わずニヤけそうになるのを我慢する。
このどう見ても恋愛慣れしていなさそうな少年は、きっとモテる先輩あたりに「女子への告白なら花を贈るといい」とアドバイスされたのだろう。そうでもないとフラワーショップには縁がなさそうだ。
ああでも、千円では小さな花束になってしまう。ちょっと色をつけてしまおうか。それとも、ささやかな方が案外喜ぶのかもしれない。
そんなことを考えながら、少年の話に耳を傾けた。

4/7/2025, 11:03:12 AM