喜村

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 蝉がこれでもか、という程大合唱をしている。
 太陽がこれでもか、という程に俺の体を焦がしている。

--チリン……

 かぼそく、それは鳴った。

「昔の人は、この音で涼をとっていたのよー」

 母親の実家、そこはボロ家でエアコンはない。
 都会のようなアスファルトもないが、暑いことにはかわりない。
 軒下で大の字になり横たわっている俺。
 暑い、暑すぎる。

--チリン……

 微かな風に身を揺られ、風鈴はまた鳴る。

「涼しい音よねー」

 母方の祖母がうちわを仰ぎながら言う。
 いやいや、音だけで涼しくなる訳がない。

「エアコン……つけないの……?」
「風鈴があるじゃない。機械ばかりに頼っちゃダメよー」

 昔の人は風鈴の音で涼しくなった、本当か?
 暑すぎて息苦しく、汗を滴しながら脱力する俺。

--チリン……

 風鈴は、そんな俺の気持ちも知らず、僅かな風の声を通訳していた。

【風鈴の音】

7/12/2025, 10:32:39 AM