初音くろ

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今日のテーマ
《鳥かご》





もうすぐ彼女の誕生日だ。
つきあい始めて最初の誕生日とあって、俺もそれなりに気合いが入ってる。
この日のためにバイト代もコツコツ貯めてある。

とはいえ、あまりにも気合いの入りすぎたプレゼントというのも憚られる。
俺の彼女はとても遠慮深く、アイスやジュースを奢っただけでもとても恐縮してしまうような子だから。
それに、あんまり高価なものを贈ったら、その後に控える俺の誕生日の時に無理をさせてしまいかねない。
だから、プレゼントはなるべく手頃な価格帯のものにしようと思ってる。

ところで彼女は俺の妹の友達でもある。
もともと友達だったわけではなく、俺とつきあい始めてから親しくなった。
たまたま2人でいるところに駅でばったり出くわした妹から根掘り葉掘り尋問され――そう、あれは尋問と言って差し支えないくらいのしつこさだった――同い年だと知ってその場で強引に連絡先を交換し、いつのまにか俺抜きで遊ぶくらいに仲良くなっていた。
俺としては押しの強い妹が一方的に振り回してるんじゃないかと気が気じゃなかったのだが、存外気が合うようで、良好に友情を育んでいるらしい。
今では彼女が俺の元へ遊びに来た時にも「お兄ちゃん邪魔」と割り込んでくるほどである。もちろん、しっかり因果を含めて部屋から追い出すが。

閑話休題。

そんなこともあって、彼女へのプレゼント選びは妹にもつきあってもらうことにした。
友達として男では理解しきれていない彼女の好みを把握もしているだろうし、完全にハズしてしまうような物を選びそうになったら止めてもくれるだろう。
これで兄妹仲が悪かったら罠を仕込まれる可能性もあるが、そんなことはないと思えるくらいには程々に仲が良い方だと思うし、妹と彼女の関係に関しても言うに及ばずだ。
報酬に季節限定のフラペチーノとスイーツを奢る約束もしていることだし、働きは期待できるに違いない。

ショッピングモールは、夏休みということもあって平日にも拘わらずそこそこ賑わっていた。
雑貨店や文具店などを見て回ったが「これは」というものはなかなか見つからない。
妹もいくつか提案してくれたのだが、俺の中でイマイチしっくりこないのだ。

フードコートで昼食を済ませた後、妹が行きたい店があるというのにつきあうべく歩いていると、ふと落ち着いた雰囲気の雑貨屋が目に留まった。
アンティークなデザインの小物やインテリアが並ぶその店は、何となく彼女の好みに合いそうな気がする。
先に行きかけていた妹が、歩みが遅くなった俺に気づいて戻ってくる。

「ああ、たしかにあの子、こういうの好きそう」
「やっぱり?」
「うん。ちょっと見てく?」
「おまえの方はいいのか?」
「別に急ぎじゃないから後で寄らせてもらえればいいし。何だったら別の日に他の友達と来てもいいし。そもそも今日の本命はこっちでしょ」

カラカラ笑う妹に礼を言い、俺はその店に足を向けた。
午前中に巡った店は男1人で入るのにはちょっと躊躇するような可愛らしい店構えのものが多かったが、この店はそういう敷居の高さも感じない。
いかにも『年頃の女の子向け』という種類の店じゃないからだろう。
価格帯もピンからキリまで、とても学生の身じゃ手が出せないような高価なインテリアもあれば、中学生でも小遣いで買えそうな小物もある。

具体的に『こういう物を』というのを決めていないこともあり、俺は店内をゆっくり見て回った。
妹も隣で物珍しげにあちこちを見回している。
店内には俺達以外に客の姿はなく、賑やかなモール内とは空気がずいぶん違って感じる。
まるで異世界にでも入り込んでしまったかのような不思議な感覚を味わっていると、ふと、俺の目が棚の中央に飾られたアクセサリーに引き寄せられた。

それは鳥かごをモチーフにしたネックレスだった。
ペンダントトップはからっぽの鳥かごで、中に鳥の姿はない。
しかし、鳥かご自体は蔦や花で彩られているという凝ったデザインで、甘すぎないけど可愛らしさもあり、何となく彼女のイメージによく合うように思えた。

「空の鳥かごは、風水的に幸運のモチーフなんですよ。『飛躍の存在の鳥が、幸福を携えて鳥かごに帰ってくる』という意味があるんです」

俺はよほど真剣に凝視していたらしい。
いつのまにか近寄ってきていた母親くらいの世代の店員さんが、にこやかにそんな説明をしてくれた。
そういう由来があるなら、プレゼントにはもってこいだとも思える。
何より、身に着けるものを贈れるというのもいい。

どう思う?
確認がてら妹を見れば、妹もまたうんうんと大きく頷く。
どうやら彼女の好みとも、同年代の女子として身に着けるアイテムとしても、合格点はもらえたらしい。
そこでようやく値札を見て、予算として考えていた額面とも折り合いがつけられることを確認し、俺はすぐさまそれを包んでくれるよう店員さんにお願いした。

「気に入ったのあって良かったね」
「ああ、おまえもつきあってくれてサンキューな」
「結局お兄が自分で選んで決めちゃったから、全然出る幕なかったけど」
「そんなことねえよ。助かった」

髪が乱れない程度にぽんぽんと頭を撫でてやると、妹もまた満更でもなさそうに笑ってみせた。
そして俺が会計を済ませる頃、妹もまた別の小物をレジに持ってきて、同じように「プレゼントなんです」と店員さんに手渡した。
妹が買ったのは、俺が彼女へのプレゼントに選んだのと似たようなデザインのチャームがついたストラップ。
たぶんこいつも彼女への誕生日プレゼントに贈るつもりなんだろう。

彼女の誕生日はもう少し先。
これを渡したら喜んでくれるだろうか。
嬉しそうに顔を綻ばせてくれるのを想像するだけで胸が温かいもので満たされていく。
その日を待ち遠しく思いながら、俺達はカフェで約束のフラペチーノとスイーツを堪能して帰途に就いたのだった。





7/26/2023, 8:39:32 AM