『カーテン』2023.10.11
カーテンが風に揺れている。おかしい、校内の窓は全て閉めたはずなのに。もしかしたら見落としていたのかもしれないと思い、教室の中に入る。
当然、いるのは自分だけだと思っていた。誰かいるはずがないと。
窓に近づいたとき、強い風が吹いた、カーテンが大きく揺れる。
「うわ」
急に声が届いて驚いた。誰もいないはずのそこに、最近転校してきたという生徒の姿が急に現れたからだ。
いつの間にそこにいたのかとか、どうやって入ってきたのかとか聞きたいことはたくさんある。
「お前、どっから」
ドキドキしているのを隠すようにそう問えば、生徒は右の口角を上げるような笑みを浮かべる。
「俺、ずっといましたよ」
ごまかしていることはすぐに分かった。しかも、上手いことそれが嘘ではなく事実である、ということを思い込ませるような口ぶりだ。そして、追及すら許すつもりもないらしい。
「やだなぁ、先生。寝ぼけてるんですか?」
「外から入ったのか?」
「そんな忍者じゃないんだから」
生徒はヘラヘラと笑う。ここは三階。壁をよじ登るのは、普通の人間では無理だ。それこそ忍者でなければできない芸当。フィクションの世界である。
「先生」
生徒が急に真面目な顔になって、そっと耳打ちしてくる。
「世の中には知らないほうがいいこともあるんですよ」
低い声で生徒はささやいた。瞬間、また風が強く吹いてカーテンが暴れる。
顔にかかるカーテンを跳ねのけたころには、生徒の姿はもうなかった。
10/11/2023, 12:44:24 PM