『いってらっしゃい』
家の玄関先で見送りをした後は忙しい。朝食の後片付けに始まって、洗濯を回し、その間に食器を洗い、洗濯物をベランダに干し、あとは各部屋の掃除。
この家は一人で暮らすには大きくて、掃除をして回るだけでも大変だ。各部屋に掃除機と雑巾をかけ、次いで階段の雑巾がけと玄関まわりもほうきで掃く。
これだけで、正午をとっくに過ぎる。
天気が良ければ、今日はバルコニーの欄干に布団を干そうかとも思ったが、家の窓から見える外は薄暗い。雨が降っているとやはり洗濯物が気になるので、早めにベランダから取り入れる。
取り込まれた洗濯物にアイロンをかけ、クローゼットにしまう。休む間もなく夕食の準備だ。
料理をしていると、だんだん辺りが暗くなり始める。電気をつけたいが、私では手が届かないし、そもそも電池が切れているため家の明かりはつかない。薄暗がりの中で、出来上がった料理をテーブルに運んでいると遠くの方で、ガチャン、と音がした。
「ただいまー。あれ?この子、朝こんなとこにいたっけ?…ま、いっか。手洗ってくるね、そしたら一緒にご飯にしよ!」
動物を模した形の人形を、小さな料理たちが並ぶ食卓に座らせながら、彼女は言った。
彼女の部屋の片隅にあるドールハウス。
箱庭のなかで、今日も人形は忙しそうだ。
(部屋の片隅で)
12/8/2023, 6:41:42 AM