光合成

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『すれ違う瞳』

すれ違う瞳、混ざらない視線。

高校の廊下の窓から暖かな日が差し込む。
あの日の僕はとても急いでいた。提出物の遅延で先生に呼び出されて、部活に遅刻していたため全力で走っていた。
グラウンドに続く1階の廊下の窓際に、一人の女子が立っていた。
肩より少し下くらいで真っ直ぐに切られた黒髪と、膝丈のスカートが風で揺れている。
僕の視線は自然と彼女に釘付られた。
穏やかな5月の日差しに照らされた彼女は輝いて見えた。

廊下から見えるのは人工芝のグラウンド。
サッカー部が準備体操をしているのが見える。
青々とした葉をつけた木が少しの日陰を作って木漏れ日の輝きをより際立たせていた。
家に帰りたくない、このまま光に溶けてしまいたい。そう思いながらぼんやりとグラウンドを見つめる。
ふと、一人の男子に目を奪われる。周りより少し明るい髪色で背の高い男の子。相手から颯爽とボールを奪い、あっという間にゴールを決める。
爽やかな5月の風のような彼の名前を知りたくなった。

夏休みが明けると、彼は転校してしまっていた。
しばらく体調不良で学校に行けない日が続いて、そのまま夏休みになり、明けたら君はもう居なかった。
昔から体が弱く入退院を繰り返していた。
友達はいないし親もいないけれど、君と会えない方がもっと寂しかった。

転校先でも僕はサッカーを続けた。
そんなある日、入院が必要なほどの大きな怪我をした。
歩く練習で院内をぼんやりと歩いていると、あの人同じように窓の外を見つめる女の子がいた。
彼女だった。
夏休みの直前、転校が決まった僕は彼女にデートの誘いに行った。後悔をしたくなかったから。
しかし、彼女は一度も学校に来ることは無かった。
そんな彼女が今目の前にいる。

すれ違う瞳、混ざらない視線。
それでも今、また彼女に巡り会えた。
今度こそ、きっと。


2025.05.04
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5/4/2025, 10:50:03 AM