ただの社畜

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俺は昔からこの性格が嫌いだった。
何に対しても無差別に煽ってしまう癖。
何度治そうと思っても治らないばかりか、どんどん悪化してるような気さえする。
最初は仲良くしてくれてた友達もだんだん離れていった。俺はただ楽しく会話をしていただけなのに。無意識に煽ってしまうため、相手をイライラさせてしまう。所詮、どれだけ取り繕っても中身は変わらないのだ。どれだけ笑顔でいても、明るくいても、話を合わせても。自分の悪癖も、周りとの距離感も、最後にできる関係性も、何もかも変わらない。
もう、疲れた。もういいんだ。無理に人と関わるのはやめよう。
そう諦めがついた。諦めさせた中学生活。
傷つくくらいなら初めから何もいらない。
と心に決めて入学した高校生活。
入学式でたまたま隣の席になった彼はどこかで聞き覚えがある声で。
まだ声変わりのしていない幼さが残った声で挨拶をされた。

小学生の頃に仲良くしてくれていた彼だった。
まだ子供ながら、その頃から煽り癖のあった俺にも仲良くしてくれていて。たくさん遊んでくれて。喧嘩になることが多かった俺とクラスメイトとの間を持ってくれることも多くて。常に明るく笑顔が絶えなかった。小学生ながら周りがよく見えていて、彼の周りには常に人が集まっていた。彼のおかげで小学生時代はクラスメイトとの関係性は大きく悪くなることはなく楽しいまま終わることができた。
そんな彼は中学は進学校に行くらしく地元の中学にはいなかった。なにひとつ言われなかった。てっきり俺は中学でも同じだと思っていたからその事実を知った時勝手に裏切られたと傷ついた。
彼がいなくても友達が作れるようにと彼を真似て。お手本にして友達を作ろうとしてて。まぁ、それも結局失敗してる訳なんだが。

(今思えば実に勝手な話だ。
 アイツからした俺もたくさんいた友達の1人だっただろうし。教えるぎりなんてまったくないんや。)
…第一。もうお前は俺のことなんて覚えてないんやろ?
俺は決めたんや。何もいらない。誰もいらない。
もう…傷つきたくない。
と、無視を決め込んでいた俺にアイツはもう一度話しかけてきた。
「ん〜?聞こえんかったか?
 おはよう。久しぶりやね!小学生以来や」
んふふ。とあの頃から変わっていない笑い方をしながらこちらを覗き込んでくる。
…。今、なんて?
「ひ、……ひさしぶり?」
「ん、あれ?もしかしておれのこと覚えてないん?」
震える声でこぼした言葉を彼は丁寧に拾ってふんわりと笑った。
だって。覚えてるはずがないと思ってた。
その他大勢の俺のことなんて。
「んふ。変な顔。また、今日からよろしくな!」
泣きそうな顔を笑われて、嫌な顔をされずに純粋に俺に話しかけてくれて、また。“また”よろしくと言ってくれた。諦めた関係性。無理なんだって思った普通の会話。
「…。ま、またなんてよく言えたもんやなぁ。
 久しぶりなんに、小さいところはお前は昔から変わらんなっ。成長期こなかったん?」
あぁ。違う、ちがうんだ。こんなことを言いたかった訳じゃない。
「あんさんは相変わらずやなぁ。んふ、成長期はこれでもきた方なんやで?」

「…また。またなんて言わんといて。
 そうせお前も変わるんや。俺を置いていくんや。
昔のままなんてありえないんや。
お前にはわからんやろ?黙って置いて行かれた気持ちが。俺は、友達だと思ってた。たった1人の友達だと思ってた。でもお前はちゃうもんな。お前には友達たくさんいるもんな。」
これは自分勝手な感情で。アイツは何も悪くなくて。
言うつもりがなかったことまで口走ってしまって。
一度口を開くと止まらなくって。止められなくって。
誰かにぶん殴ってでも止めて欲しくって。
たった1人の俺の友達をこれ以上傷つけたくなくて。

「…せやなぁ。何も言えなかったことは本当に悪いと思っとるんよ。
……生きているうえで変わらないものなんてないんよ。人は常に変化して、成長していくもんやからさ。
でも、でもな。変わらないものもあるねん。
あんさんの癖やったり、おれの悪癖やったり。
おれらがずっと友達だってことやったり!」
「、、、は?」
「いろいろ、あったんや。本当に沢山。
いろんな人に会って、いろんな経験をした。
嫌なことも沢山あって、しんどい時もあった。
でも、おれはずっとおれだったし、ここであんさんとまた再開できたのも運命だと思ってる。
たしかに友達は多いほうや。けど、あんさんを他の誰かと一緒にしたり、蔑ろにしたつもりは一切ないんよ。
でも、あんさんを傷つけたことには変わりない。
それでも、こんなおれとまた仲良くしてくれたらうれしいな。」

こいつはこんな時でも俺の気持ちを汲んでくれて、自分だけが悪いというような言い方をして。
こいつにも言えない事情があったかも知れないのに、こんな自分勝手気周りない俺を許してくれて、受け入れてくれて。”また“と何度も言ってくれて。

必死に涙を堪えながら俺が今できる精一杯の笑顔で
「なんや。おもろそうなことがあったんやなぁ。
 まずはその話を聞くところからやな!」
と煽ってしまった。

お題「変わらないものはない」
黄視点(黄桃)学パロ

P.S.
着地ミスりました。どこだここ〜?( ᐙ )ナンダコレ

12/27/2023, 8:05:40 AM