けろぴこ

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 満開の季節以外の桜の木は、なんて地味なんだろう。
 ごつごつとした太い幹には所々治療が施されていて、コールタールのような保護材が塗られている。
 残らず葉を落とした枝は、きんとした空気の中で穏やかに眠っているようにも、厳しい気候に震え耐えているようにも見える。

 この公園に来るのは3年ぶりだ。
 中学卒業を控えた冬、別々の高校への進学が決まっていた私と雛子はささやかな約束を交わした。
 3年後の今日、二人の同じ誕生日「2月28日」に、この桜の前で会おうねって。

 その約束に深い意味は無かったし、卒業後2、3度、他の友だちを交えて雛子と会ったこともある。
 だけどこの約束のことはお互い話題にしなかった。今日も連絡を入れないまま、ここに来た。
 べつに雛子を試したいわけじゃないんだ。これは私の、単なる遊びなんだ。

 桜の脇にある色の剥がれたベンチに座り、スマホをひらく。高校の友人から届いていたおめでとうDMに返信。雛子からの連絡は無い。

 今日ここに、雛子が来ても来なくても、私はちっとも構わない。
 私たちはあの頃も今も、親友というほどの親密さは無いし、お互い新しい人間関係の中で生活してる。
 普段雛子のことを思い出すことも減った。
 中学3年の冬、否応なく始まろうとしている新しい日々への、言葉にならない不安、焦燥。向き合うときっと動けなくなるから、私たちはそれを期待で塗り込め、隠して、やたらとはしゃいでいた。
 今、同じ気持ちが私の中に転がってる。
 だからね、これは私の遊びなの。

 ふうふうと息を吐く。白い息が綿菓子くらい大きくなれば良いのにと思う。直ぐに風が掻き消す。
 両方の足先で、左右からざりざりと砂を寄せ集める。縦長の砂山が出来る。それをつま先でそっと踏んで崩す。
 右手の人差し指を丸めて、真ん中にうんとちいさな隙間を作る。指ピンホール。片目を瞑ってそれを覗く。すこしだけ視力が上がったように、遠くが見える。
 いびつなピンホールの真ん中に、跳ねながら駆けてくる人。


「葵ーーーーーー!!!!」

 でっかい声。

「雛子おおおー!!!!」

 私はベンチに飛び乗って、思いっきり飛び上がった。ばかな子どもみたいに!
 雛子も両手両足でっかく広げて、ばかみたくジャンプした。


『ささやかな約束』

11/14/2025, 12:57:19 PM