悪役令嬢

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『秋🍁』

「秋の味覚を楽しむ祭りに行きませんか?」

魔術師から《カミキリムシの幼虫祭り》に
誘われた悪役令嬢と執事のセバスチャン。

この祭りは毎年9月に開催され、
その名の通り、幼虫を取って食べる催し物で
まず最初に幼虫探し競走から入ります。

大人や子どもに混じって、斧を手に
木の幹をかち割っていく悪役令嬢たち。

「主、見つけました」
「まあ、なんてご立派な……」
「これは食べ応えがありそうですね」

執事から手のひらサイズの幼虫を差し出され、
ゴクリと喉を鳴らす悪役令嬢。

ここまで成長するのに、
一体どれだけの年月を費やしたのでしょう。

捕まえた幼虫たちは籠に入れられ、
屋台で料理として振る舞われます。

パセリとレモン汁をかけた幼虫のバター焼き、
リキュールでフランベした幼虫の串焼き、
シャリと共に楽しむ幼虫寿司、
幼虫のココナッツ和えに幼虫のクリーム煮。

「はうん、なんて絶品なのかしら」
「流石は昆虫界のトロと呼ばれる食材です」

外はカリッ、中はクリーミー。
ヘーゼルナッツのような香ばしさと
チーズのようなとろっとした濃厚さが
口いっぱいに広がり悪役令嬢は目を潤ませます。

二人が舌鼓を打っていると、魔術師が
手を振りながら彼らの元へやって来ました。

「今から広場で幼虫の早食い競走が
始まるそうですよ」

ルールはいたってシンプル。
皿に盛られた10匹の幼虫を、一番早く
平らげた者が優勝との事らしいです。

「あ、ちなみにお嬢様とセバスチャンも
エントリーしておきました」

「ちょっと!参加するなんて一言も
言ってませんわよ!」

会場では挑戦者と観客で賑わい、
悪役令嬢はお皿の上で蠢く幼虫を見つめながら
冷や汗を流していました。

(味は確かに美味ですが、
踊り食いだなんて聞いてませんわ!)

周りを見回すと、両手で幼虫を掴んで
次々と食べる者や、10匹丸ごと
口に押し込む猛者もいます。

モソモソと食べ進める悪役令嬢の横で、
セバスチャンは目にも留まらぬ早さで
幼虫を咀嚼し、あっという間に次の幼虫に
手を伸ばしているではありませんか。

「ごちそうさまでした」

丁寧にナプキンで口元を拭くセバスチャン。

ものの数秒で完食した挑戦者を前に、
会場は大盛り上がり。

「流石は私の執事ですわ、セバスチャン!」

「二人とも、見事な食べっぷりでしたね」

ゲームマスターの如く拍手を送る魔術師。

「あなたは見てただけですものね」

うぷっと口元を押さえる顔色の悪い悪役令嬢を
セバスチャンは心配そうに覗き込みます。

「主、食べ過ぎましたか?」
「ええ……もう幼虫はしばらく結構ですわ」

かくして三人は、世にも奇妙な幼虫祭を
楽しんだのでありましたとさ。

9/26/2024, 5:15:20 PM