ミミッキュ

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"たまには"

「飯持ってきたぞー」
「みゃあん」
 ご飯皿にドライフードを入れて居室に戻ると、椅子の上から足元に飛んできたハナが皿の定位置の前に座って待つ。
 行儀よく座るハナの前に皿を置く。
「みゃうん」
「召し上がれ」
 言葉を返すと皿の中に顔を突っ込んで、はぐはぐとドライフードを食べ始める。
「……」
 立ち上がって、フルートが入ったケースを仕舞っている戸棚の扉を見つめる。
 今日、医院は一応午前のみ。正午以降は予定が無い。
──昼飯食べる前に一曲吹くか。
 戸棚の取っ手に手を伸ばし、扉を開ける。ケースを取り出して机の上に置くと、ケースの蓋を開けて中のフルートを取り出す。
 やる曲は、ケースの蓋を開けて中のフルートを見た時に決まった。
 ハナの食事の邪魔をしないよう、フルートを持ち居室を出て扉をそっと閉める。診察室の向かいの処置室に移動して窓際に立つとフルートを構え、旋律を室内に響かせる。
──〜……♪
 《キミの記憶》。実は《overtuRe》のアレンジを始める前に、いつか吹きたくてアレンジした曲。
 《overtuRe》のアレンジを終わらせ、練習が行き詰まっている今。息抜きも兼ねてこの曲をやろうと決めた。
 曲全体が綺麗な旋律で、青く透き通った空が広がっている情景が浮かぶ。今の空は、まさにこの曲にぴったりだ。
 ただこの曲の難点は、サビがどう足掻いても息継ぎが難しい事。ノンブレスで数小節分吹く箇所がサビ一つに二箇所あるから、配分を間違えると後半弱々しくなって爽やかさに欠けてしまう。
 幸い高低差は緩やかで、気にかけるのはサビの部分の配分のみ。
──〜……♪
 《Brand New Days》と同じくらい好き。
 だから、ずっとフルートで吹いてみたかった。
 こうして、フルートでこの曲を奏でられて嬉しい。
 歌うように、高らかに奏でて曲を終わらせる。
「ふぅ……」
 フルートから口を離して一息吐いて、奏で切った嬉しさに窓の外の空を見上げる。
──やっぱり、昼間に吹くのもいいな。
 何度か昼間に吹いた事はあるが、いつも吹くのは夜なので昼間に吹き終えた爽やかさを噛み締める。
「……戻ろ。ハナ、もう食い終わってるだろ。あと自分の昼飯」
 ハナの食後の運動と、自身の昼食の為にフルートを手に居室に戻った。

3/5/2024, 12:50:44 PM