『開けないLINE』
スマートフォンのホーム画面に今年もメッセージが来たと通知が入る。
「いつまでも面倒なやつだ……」
俺が通知を見て舌打ちをしたのをキッチンに立つ妻や絵本を読むこどもは気づかない。壁に掛かるカレンダーを見ると今日の日付は去年も一昨年もその前の年にもメッセージが届いた日付と同じだった。
差出人は前の妻。正確に言うならば、3年ほど前に別れてほしいと切り出したときに刃物を持ち出され、揉めた末に殺してしまった面倒な女。
あの女の持ち物は箱に詰めて床下のあの女とともにある。誰かがあの女を騙っているのかもしれないが、わざわざ日付を指定してメッセージを送ってくる奴は一人しか思い当たらない。当然、開いてやり取りする気には到底なれない。
「絶対に別れない」
あの女が包丁を手にしていたときの目を思い出しかけてあわてて強く目を瞑り、頭から振り払う。
こどもがその様子に気づいて心配そうに声を掛けてくれ、妻も気遣わしげな視線を送ってくれる。ふたりとも、床下に人がいることなど露ほども思ってはいないだろう。
「なんでもないよ」
かといって教えてやる気も露ほどもない。スマートフォンの通知をスライドして流し、また1年を憂鬱に過ごすことにした。
9/2/2024, 4:00:11 AM