KAORU

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 凝ったネイルアートを見ると、眉をひそめる人は多い。
 そんなごてごて爪にのっけて、家事できんの?とか不衛生じゃない?とか。
 いちいち否定するのも面倒で「だいじょうぶですよー」とかわす術ももう覚えた。
 男受けねらってる。そう陰口をきいている人もいること知ってるけどさ。
 これは自分のため。気分を上げてくれるもの。
 だって、自分の手って一番目がいく部分だもの。そこに星のかけらみたいなキラキラした爪先が映れば、頑張ろうって思える。自分てまだいけると思う。力になる。
 お守りなんだよ。だから大切にケアをするの。
 
#星のかけら


「凛!」「鈴!いる~?」
 名前を呼ばれた。高校生活、どきどきしながら授業がはじまり、まだクラスにもなじめていないころ。
 お昼、どうしよう。誰と食べようとおろおろしているときだった。

「「はあい」」
 反射で答えると、声がシンクロした。思わず、もう片方のステレオを探す。
 と、教室の片隅でサンドイッチを食べてる男の子と目があった。
 あれ?
「りん、って……。ああ、同姓同名?」
 彼は立ち上がって呼ばれた教室の戸口に向かう。
「同姓ではないと思うけど。あたしも、りん、です」
 隣のクラスになった中学の頃からの親友、かえでちゃんが手を振っている。お昼、迎えに来てくれた。
 かえでちゃん、と嬉しさまんさいで駆け寄ろうとしたあたしに彼は言った。
「俺もりん。凛とした、っていう漢字の、凛」
「……へえ、ぴったりですね」
 凛くんていう男の子は、黒髪で背がしゅっとして姿勢がいい。名は体を表すだなあ。
 彼はまじまじとあたしを見て、「君も、凛って書くの?」と訊いた。
「あたしは違くて。鈴の【りん】です」
 凛とした、っていう形容に比べたら、鈴ってなんだか平凡、と変な気後れを感じつつ答えた。
 すると、凛くんは少し笑顔になった。
「ぴったりだな。……鈴みたいだ、声」
「え」
「知らない? 鈴を転がしたみたいな、ってきれいな声を譬える言い方」
 同じりん同士、一年よろしく。と彼は言った。
 
 同じ名前の男の子との恋は、そんな風にして始まった。

#Ring…Ring…

1/9/2025, 9:03:01 PM