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病室
「あの花が散ったら、私はいなくなる」
僕はこの言葉が理解できない。
だって、植物はどうせ枯れる。
そんなものに自分の運命を、命を預けてしまえるのか。
少なくとも僕は最後まであきらめずにいたい。

こんな僕のつまらない言葉がいつまでも心に残っているのか、親友は、僕が入院している間生花をお見舞いに持ってくる事はなかった。
僕の病室は窓の外には常緑樹くらいしか生えていないのでせっかくの四季も変わり映えしなくつまらない。
なのでたまに「ずっと同じ景色ばっかりでつまんないよね。たまには季節のお花とか見たくない?」とおねだりしていた。
そうすると、次お見舞いに来る時手にカラフルな造花を持ってきてくれる。それが何度も繰り返されて、病室の小さな戸棚はいつしか可愛いお花でいっぱいになった。決して枯れない、永遠の美しさ。
それが増えていくたび、親友との友情が枯れないつよいものになっていくようで勝手に心の中で喜んでいた。

ある日。
昨日親友にお見舞いに来てもらって、まだ目新しい窓際のお花を眺めていた日。
急に身体が痛みだし、呼吸も苦しくなった。慌ててナースコールを押すものの、看護師さんが来る前に意識を手放してしまった。
暫くして目を覚ますと、周りが少し騒がしかった。
、、、もう、助からないのだろうか。
もともと特殊な病気で、進行している自覚が全くと言っていいほどないものなのだ。定期的に検査は受けていたが、全部両親に報告され僕が何度聞いてもはぐらかされてきた。
ふと、親友のくれた花が脳裏によぎる。
最後に見るなら、あれがいい。
きっと美しく咲いているだろう。僕がいなくなっても。
そう思って管が繋がれて不自由な上いつもより重くなった身体にムチを打ってなんとか窓際に目を向ける。
すると、そこには。
———生花が、あった。
「生きる花」と書いて、「生花」。
これだけ見ると、縁起のいいように感じるけど。
でも、生きているという事は。
それは、いつか終わりが来るという事で。

親友の、彼のくれたものとは違うそれに違和感と不安を覚えた。
バタバタといういつもの足音。
でも何処か焦りの感じる足音に不安と安心感を覚えながら、再び眠りについた。なんだか、もう戻ってこれない気がした。
近くに誰かいた気がしたから、最後の気掛かりだけ伝えておいた。
「、、、、棚、花、彼に、、、」
大した声は出なかった。
まあ、きっと伝わらなくても彼がなんとかしてくれるだろう。
あの花たちは、また日を浴びることができるだろうか。

視界の端で、カラフルなものが落ちるのが見えた。

8/3/2024, 10:16:13 AM